第5話

だからといって、私は先輩に対して佳音のような思いを持つことは無かった。

確かにあんなに整った容姿の異性はそうそう出会えないだろうからつい見惚れてしまったのは事実だ。でもそれ以上先輩に何かを期待することは無い。

憧れや、ましてや恋愛感情なんてわかない。

佳音や他の女子生徒のように目を輝かせて人を見つめることができるのを、少し羨ましくも思った。



“私は人を好きになれない。

好きになる資格がない。

これから先もずっと、それは変わらないことだ。”



空っぽな心に隙間風が吹いていくような感覚。


それでも良かった。


心がいっぱいになる方が苦しくてたまらないのを私は知っているからだ。



いつからだっただろうか?

私は自分の事をどこか他人事のように感じるようになった。

自分の現状をどこか遠くから俯瞰しているような感覚とでもいうのだろうか。


もちろん楽しい、悲しい、怒り、苦しいと言った感情はあるけれど、そういう感情で心を支配されるような事はここ最近ずっと無いような気がする。

嬉しさで胸がいっぱいになる事がないのは残念なこととも言えるけれど、反対に悲しみや怒りでコントロールが効かなくなり暴走してしまうようなことが起こらずに済むのは、私が置かれているこの現状から自分を守るための一種の正当防衛なのかもしれない。


だからこれで良いのだ。


つまらない人間だと思われても、自分を見失ってしまうよりずっとマシだ。


私が普通の女の子のような純粋な気持ちを手に入れられないことも受け入れていこう。


5時間目の授業が始まり、私は教科書を見ているふりをしながら頬杖をついてそんな事をぼんやり考えていた。

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