第4話 優しい人

「ありがとうね、渡瀬くん。」


花守は満面の笑みを俺に向けた。

光り輝くような長い金髪に、透き通るような碧眼。耳にはピアスがついており、髪はリボンによってポニーテールにされている。実にギャルという感じではあるが、その割にはどこか幼く、純粋さを感じる。

「渡瀬くん?」

「あ、ああ。」

見惚れてしまって返事をするのを忘れてしまった。不思議そうにこちらを覗き込む花守に、俺は少し視線を逸らしつつ答える。


「ま、まあ、とりあえず力になれてよかったよ。でもまたいつああいうのが来るのかも分かんないし、2人ともちゃんと話した方がいいよ。俺に女子の関係は分かんないけどこのままだと絶対に良くない。」


「それは勿論。ちゃんと2人に話してやめてもらうよ!多分私の言ってることを本気で受け取ってくれなかっただけだし!」


花守は俺を安心させるようにそう言った。

ああ、どこまでお人好しなんだろうと思った。酷い目にあったのにも関わらず恨まず話し合いで解決しようとしている。でもこれじゃダメな気がした。優しすぎるのが美徳ではない。実際、本当に本堂と浅田が納得するかも分からない。それに花守は全てを自分のせいにして今回の件を受け入れてしまってる気がした。だから俺は堪えきれず花守に言ってしまった。


「花守、今回の件君は全く悪くないんだ。あんな大きな男に迫られて怖かっただろ?今も軽くトラウマになってるだろうし、もしかしたら一生残るものになったかもしれない。もっと怒っていいと思うぞ。溜め込むな。花守は悪くないし、もっと怒っていい立場なんだ。」


花守は驚いたように目を丸くして俺を見た。


「いや、ごめんお節介だったよな。俺はまだ花守のことを全然知らないし、何言ってるんだって感じだ。忘れてくれ。」

自分の言動に恥ずかしくなってきた俺はそう捲し立てた。花守はそんな俺に


「…そんなことない。ちょっと驚いただけ。ありがとね。渡瀬くん。でも私は真里と瀬里奈を信じたいから。次また同じ事があったら分からないけど…今回は大丈夫。」


「まあ花守がそういうなら…」

一段落話しがつくと、「本当にありがとね」と俺に伝え花守は帰っていった。その後ろ姿が見えなくなったところで俺も帰る支度をし、学校を出た。


          ✳︎

家に着いて俺は今日の出来事を振り返っていた。


「まさかあの花守と話して、しかも助けることになるとはなあ…」

自分の部屋で1人呟く。そう、本来俺と花守は話すことは決してなかっただろう。あるとしても、授業のグループ学習程度だろう。

「なんか俺、偏見ばっかだったな。」

ギャルを嫌なやつと決めつけ、遠ざけてきた。実際そういう人もいるだろうが全員そうなわけではない。花守はその典型例だ。人を責めず、常に相手のことを考えている。俺もかつてそういう考えを持っていた事があったが、そんなものは中学の時に捨てた。優しさだけが美徳ではないし、いい人であろうとするほど損をするのだ。でも俺はそういう人を美しいと思うし、辛くなっているなら支えたいと思う。だからかもしれない。花守を放っておけなかったのは。

「まあ、いいか。」

問題が解決した今、もう花守とは話すことも関わることもないだろう。今日は疲れたし、もう寝よう。そう思った。が、

「いや、ちょっと筋トレするか。」

別にあの男が怖かったとかではない。あの筋肉に影響されたわけでも男として負けを感じたわけでもない。うん。俺はそうして筋トレに勤しみ、眠りについた。筋トレをするのは中学で部活を引退して以降始めてだった。

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