第19話

人気のある男子はボタンをもぎ取られるし、人気のある女子は告白の嵐だ。


私のクラスメイトの友達2人も、向こうで彼氏とイチャついている。私はポツン…と1人になったので、もう帰ろうかと思って教室にバッグを取りに戻りかけた時、


「雪ちゃん!」


と声が聞こえて咄嗟に振り向いた。そこには、範子おばさんが白いブラウスに黒のスーツ姿で現れて、


「卒業おめでとう!」


と言って駆け寄って、私を体を全身の力を使ってギュウッと抱きしめてきた。


「範子おばさん!来てくれたの?てか、痛い痛いぃ…」


「当たり前じゃない!どうせ真波まなみと次郎は来ないでしょ?あいつは…!」


範子おばさんはそう言いながら、拳を固めて震わせている。


真波というのは私の母親。次郎は父親。この2人をボロクソに言えるのは、範子おばさんくらいだろう。範子おばさんは、長い髪を後ろで一つに纏めて、相変わらず薄化粧だ。範子おばさんもこの学校が母校のようで、一緒にいると進路指導の50代の男性教諭が通りがかって、


「うわっ!範子!」


と驚いて動揺している。範子おばさんはニヤニヤ笑いながら、


「どうも!お元気そうで!お腹、随分と出てますよ!メタボかー!」


とその先生に地雷発言を落とし込んだ。


やめて〜!卒業式に、事件起こさないでよ、範子おばさん〜!!


私はそう思って、思わず苦笑いになってしまう。範子おばさんは、高校生の時は不良チームにいたらしい。結構なワルだったとか。レディースにも入って、ボス的な存在だったと聞く。


「もう立派な大人だね、雪子ちゃん」

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