第14話

インターホンは、エントランスではなくこの部屋の玄関前にある。ドアをバンバン叩いているのが聞こえて、私はぞっと背筋の毛が逆立った気がした。


女、こわっ…!


坂井さんはかなりめんどくさそうに頭をかきながら、


「関係ないだろ?別れたんだし。もう来るなっつったろ?お前、ほんとしつこい。ウザい」


と不機嫌に言うと、私は驚いて坂井さんを見た。ドアを開ける気は、更々ないみたいだ。


女?彼女、いたの?でも、今別れたって言ってた。別れたんだ…。てか、そんな人、いたんだ…。知らなかった。


「もうほんと、俺、そういうの嫌い。めんどくせぇ。帰れよ!」


怒ってる。というか、なんか、嫌がってる?


そう思うと、なんだか急にさっきのキスを思い出した。


こんなに嫌がって怒ってる坂井さんだけど、さっき私にしてくれたキスは、とても優しくて、物凄く甘かった。見かけとは全然違う男らしい力で引き寄せて、重なり合わせた唇は、私の中の『オンナ』の部分を一気に引き出した。私も知らない『オンナ』の部分は、確かにあのキスに感じてしまった。


坂井さんは右足で立って、左足は少し曲げて爪先で自分の右足のふくらはぎをこすっている。インターホンの受話器を持ちながら、壁に肘をついて、かなりうんざりした顔つきになっていると、女の方がずっと、


「別れないわよ!開けなさいよ!!」


とまだ激しく粘っている。

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