第13話

「何が、やらしいことなのか、教えてやろうか?」


坂井さんはそう言って私の腕を掴んだまま詰め寄ってきて、壁に背中が当たってしまった。ヤバい。逃げ場が…ない。坂井さんは見たこともないような真面目な目をしたかと思うと、悪戯な笑みを浮かべて見つめてきた。何も言わないけれど、その視線だけでキスされてるみたいなエロい感覚。その視線の熱と、さっきの唇の感触が残っていて、心臓が激しくロックを奏でている。


すると、再びそこにピロピロピロ〜とインターホンの音が鳴り響くと、私と坂井さんは顔を見合わせた。坂井さんは「チッ」と舌打ちして私の腕から離れて、壁側のドアホンに歩み寄った。そしてドアホンの受話器を取り上げて耳に当てると、


「なんだ…?!もう終わったはずだろ。勝手に来んな」


と冷たくぶっきらぼうに言い出した。私はインターホンのモニターをチラッと横目で見てみる。でもすぐに目を逸らして、ドキドキしている心臓を落ち着かせようと、思い切り息を吸い込んで、一気に吐き出した。


な、なんなのよ!なんでキスするの?高校生に手を出すなんて…。本当にサイアク!やましいことしないってあれほど…。


私はそう思うと、なんだかムカムカしてきて頬の内側をキュッと噛み締めて、ソファの脇に置いたバッグを取った。


帰ろう!!ヤラれちゃう!!!


すると、


『まさか、女がいるの?』


とインターホンから尖った女の声が聞こえてきて、私は咄嗟にモニターに振り向いた。

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