第12話

「坂井さん。起きた?こんなとこで寝てたら風邪ひきま…」


と言いかけた時、坂井さんは左腕を伸ばして私の後頭部を掴むと、顔を近づけてきた。


え?


次の瞬間唇と唇が重なって、私は驚いて呆然としてしまった。頭の中、真っ白だ。顎の無精髭がザラリと私の顎をかする。ドラマとかで、よく見るこういう光景。


静かに重なっただけの唇は右にずれていき、うっすらと唇が開いた。その時、


ピロピロピロ〜っとインターホンの音が響いて、私はハッとして我に返り、坂井さんの胸を突き飛ばして、


「ひゃああっ!!」


と叫んで立ち上がった。坂井さんは肘掛けに頭をぶつけたのか、


「いってぇ…!お前、何すんだよ」


と言いながら頭を押さえて痛そうに眉をしかめた。


「それは、こっちのセリフでしょ!!やらしいことしないって言ったばかりじゃない!」


「え?やらしいこと?してないし」


「は?!」


しらばっくれるつもり?!サイテーだ!サイテーなおじさんだ!!


私は唇を噛み締めて坂井さんを睨みつけると、坂井さんはすぐに立ち上がって私の腕を掴んだ。


「やらしいことはしてないだろ?」


「し、したよ!」


「このキスは、やらしいことに入らない」


「え?!」


この期に及んで、何言ってるの?!この男はっ!

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