第9話

1Kの部屋はリビング兼ベッドルームで、食卓はなくソファの前にちゃぶ台がある。ローテーブルとかいうものではない。「ちゃぶ台」だ。オヤジ臭い。ちゃぶ台の上に飲み散らかした缶や食べた跡の残る皿など、青年マンガ誌やら新聞も置きっぱなしだ。ソファにも脱ぎっぱなしの服やズボン、靴下まである。


「ま、適当に座ってて」


「…どこに座るの、これ」


「あ?」


ソファに腰を下ろした坂井さんは、タバコに火をつけてまた口にくわえると、となりに置きっぱなしの服を後ろに放り投げた。私はニッコリと微笑んで、


「まさか、これを…私に掃除させるのが目的じゃないわよね?こんな時間に」


と穏やかに言うと、坂井さんは目を丸くしながら私を見上げて、


「さすが!空気を読む女!宜しく頼むよ」


とニヒヒと口角を上げて笑って言うと、私は辺りを見回して、バッグをソファに置いた。


「本当に、汚すぎ」


「明日さ、田舎からお袋来るんだよ。潔癖症でさ。こんな汚い部屋見たら、絶対結婚しろとか言い出して無理やり見合いさせられるんだよ。お袋には俺も頭上がらないし、とりあえず綺麗な部屋にして、ここでちゃーんと頑張ってますってとこを見せなきゃ」


「いやです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る