第8話

「てか、高3になったんだよな?合意の上で、真摯な付き合いなら犯罪にはならないんだぞ」


慣れた手つきで咥えたタバコに火をつけて、1センチほど窓を開けて坂井さんが言うと、私は窓枠に肘をついてチラッと坂井さんの横顔を睨みつけた。


「それ、色々間違ってるでしょ?合意?…真摯…?!じゃあ、私たちが真剣に付き合ってるってことでしょ?あり得なぁい!!」


「お前、可愛くないな」


「どーも」


私は目を閉じてそっぽを向いて言うと、坂井さんは微笑みながらタバコを噛み、右手でハンドルを回して運転を続け私の頭を優しく撫でた。


「安心しろ。お前みたいなガキに手を出すようなバカはしねぇよ」


坂井さんの言葉に、私は坂井さんを見て頭の上に乗った手を払い除けた。


「私も、おじさんには興味ありません」


「じゃ、成立したな」


「そうですね!」




でも。


坂井さんのその笑った顔、結構好きだけどね。そんなこと絶対言わない。つけあがりそうだし。私はそう思って、微笑みながら窓の外を眺めていた。


今は、このままの方が居心地いい。





坂井さんのマンションに到着したのは、18時頃だった。まだうっすら空は明るくて、気候も暖かく過ごしやすい。季節は5月。ゴールデンウィーク中で、あさってまで学校も休みだった。台東区にある単身用マンションの3階の坂井さんの部屋に来ると、坂井さんは先に鍵を開けて中に入った。


「スリッパないけど、いいよな?」


と振り向かずに言ってスタスタと部屋に上がると、私は苦笑い。


「知ってる」


と呟いて靴を脱いで、私も部屋に上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る