第7話


「雪子。お前、今日ちょっとうちに寄ってくんないか?」


萌梨のお見舞いには、静岡のメンタルケアセンターまで行っている。もうすぐ萌梨の出産のため、みんなはソワソワしている。


あの事件のあと、祐さんと弟の圭太くんは、静岡の祖父母の家で暮らしている。祖父母と言っても、二人はこの祖父母との血のつながりはない。萌梨の母親の両親だから。でも、人ごととは思えず、祐さんたちを引き取ると願い出てくれたのだ。


今日は萌梨のお見舞いに、坂井さんが車を出してくれた。いつも一緒に行動していた滋は、今回は祐さんたちと静岡にお泊まり中。だから今は2人きりで車に乗って静岡に行き、その帰りの会話だ。


「坂井さんちに?どうしたの?」


助手席で私はシートベルトを軽く掴んで、坂井さんの横顔を見た。


「頼みたいことがあんだよ。時間取らせない。遅くならないように送るからさ」


坂井さんはそう言って、懐からタバコのソフトケースを取り出した。


「…まさか、何かやらしいこと」


「しねえよ!」


「…ですよね。私に手を出したら犯罪ですからね。刑事なのに。警察側の人間なのに」


「しつけぇな。なんだ?手を出して欲しいのか?」


「そんなわけないでしょ?」


わけわからない会話が続いてしまった。でも、坂井さんとのこういう会話は、嫌いじゃない。結構楽しい。

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