第36話 説教なんて久々に受けましたわ……
週末のショッピングモール。
賑わう人混みから外れたところで、正座をしている人間を見たことがありますか?
「少年、今のはよくない」
「はい、すみませんでした」
「囃し立てたこちらも悪いし、男だ女だなんてことも言うつもりはないが、君自身が守ると決めて飛び込んできたのだろう? 自分で守らんでどうする」
「おっしゃる通りです」
俺は、見たことはありません。
今日、生まれて初めてなりました。
ナンパから友達を守ろうと飛び込んだらナンパ師に説教されることになるなんて思いもしなかった。
けれど彼らの言い分は最もだし、説教というか優しく諭されているくらいなので、反論の余地も抵抗の余地もない。
でも一個だけいいですか。
頭のモールだけ外してください。
ライオンのたてがみみたいになってて気が散るので。
おそらく、隣で大人しく正座しているディナも同じような気持ちだろう。
「さっきの少年はあまりにもアレだったが、それを差し引いても今のはよくない。こんな硬い床の上で人を投げたら危ないだろう」
「はい、申し訳ありません」
「見ればわかる。素晴らしい手管だった。さぞ修練を積んだのだろう。なればこそ、その力の重みがわからない君じゃあないだろう」
「はい、反省していますわ……」
……なんだこれ。
本当に、なんだこれ。
「反省したならよし! もうやるなよ!」
「はい、すみませんでした……それで、あの」
「ん? なんだい?」
「結局、あなたたちは一体……?」
「「「よくぞ聞いてくれた!」」」
三人それぞれ、説教モードを解いて順番にポーズを決めていく。
「女の子は笑っていなくちゃ可愛くない!」
ダブルバイセップス。ムキムキの『デート』さん。
「可愛い女の子とデートしたい!」
サイドチェスト。ムキムキの『して』さん。
「一発ギャグが面白かったらデートしてください!」
トライセップス。ムキムキの『♡』さん。
「「「それが俺たち!
「羞恥心なさそうなのに……」
「吹。声に出てますわよ」
あっやば。つい。
本日二度目の正座を覚悟したけれど、意外にもナンパ三兄弟の皆さんは豪快に笑い飛ばしてくれた。
「はっはっは! なかなか愉快な少年だ! その調子で彼女を怒らせるのではなく、笑わせるのだぞ! 女の子は笑っていないと可愛くないからな! はーっはっは!」
高笑いしたまま去っていくナンパ三兄弟。
頭のモールそのままでいくんですね。
職質されないことを祈ってます。
「吹」
「あっディナ。ごめん、ほんと、焦りすぎた」
「いえ、
「なんかディスられてない? テンプレ云々をいうならあっちも大概だった気がするけど」
「そうですわね。本当、貴方といると退屈しませんわ」
「あれも俺のせい?? ほんとに???」
愉快そうなクスクス笑いがくすぐったい。怒られるよりいいけど、納得いかない。
どこまでも、格好つかないなあ……。
「さて、一段落したところで、次はどこに行きます?」
「ごめん、どこかでちょっと一息つかせてもらっていい?」
「……やっぱり、どこか痛めて」
「いや、違うよ。不思議なことに全然痛くない。すごいねバーネロンド流格闘術」
「我々に必要なのは徒に人を傷つける暴力ではない。父の言葉ですわ。ですがまだ
「うん。ちょっと気疲れしただけ」
「なら、人の多いところから離れましょうか。近くに大きな公園があるはずですわ。そこまで歩けます?」
「うん、大丈夫」
数時間ぶりにショッピングモールの外へ出る。
思えば通学路でも、それ以外でも。
いつもディナが会話を回してくれていた。
それなのに今、俺たちの間に会話はない。
先ほどのことを気にしているなら、悪いのは俺だし怪我もしていないのだからそんなに気にすることはないのだけど。
なぜだか、こちらから声をかけることもできない。
予感がする。
目を背けていられる時間は、そろそろ終わる。
__________
☆今日の町人☆
ナンパ三兄弟
女の子は笑顔が最強→笑顔の女の子とデートしたい→笑わせることができたらデートしてほしい
などと公言しナンパして回る変態三人組。
血の繋がりはない。
迷惑と思われた時点で退くので基本害はなく、意外と周囲の評判はいい。
以下評判。
・私は好きよ。デートはしないけど(二十代/学生)
・無茶な客引きを叱られてからすっかりファンっすね(二十代/ホスト)
・息子にほしい(四十代/食堂のおばちゃん)
・レポート早く出せ(五十代/教授)
・あめくれた(五歳/園児)
・なんで俺煽られたんですか……?(十代/吹)
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