第30話 キャンプクッキングですわ!
焚き火台、薪、クーラボックスに各種調理器具。
万全の体制を整えた上で三角さんが取り出したのは――なんだあれ。
「火起こしにはこのファイヤースターターを使います!」
「ふぁいやーすたーたー?」
「不思議そうな顔だね多々良くん。ふっふっふ……これはね、一言でいうと、そう。スタイリッシュ火打ち石ってとこかな?」
「スタイリッシュ火打ち石……!?」
火打ち石ということは、あの棒にあのUSBみたいなのを打ち付けて火を起こすのだろう、ということまではなんとなくわかるけど。
一体どうスタイリッシュなんだ……!?
「さあ刮目せよ……! と、言いたいところだけど、その前にまだやることがあるよ」
「あっはい」
「多々良くん、フェザースティックって知ってるかな?」
「ふぇざーすてぃっく?」
別になんの演技でもなく本当になにも知らないだけなのだけど、そのリアクションが三角さんは嬉しいらしい。
好きなものの解説するの楽しいもんね。
「フェザースティックは火口や焚き付けなんかに使うものなんだけど、まずは見たほうがはやいね」
三角さんはそう言うと、三十センチほどの木材の棒とナイフを取り出す。
職人の目つき。かっこいい。
さっきやめとこうと思ったばかりだけど、やっぱりナイフだけは借りてみようかな。
なにに使うでもないけど。
「いくよ……!」
三角さんが、寝かしたナイフをそっと木材に当てると――!
「ついたよ」
「「えっ?」」
まさに今! というところで春永さんから声がかかった。
焚き火台に乗せられた薪からは既に小さいながら火が出ている。
「なんで!? なんでつけちゃったの!?」
「むしろ着火剤もライターも貸し出されたのになんで使わないの」
「あーっ!? 隠してたのに! 華麗なナイフ捌きやファイヤースターター捌きでカッコイイって思われるとこだったのにー!」
「バカなの?」
そんな魂胆だったんだ。
ディナならその辺うまく察してフォローできそうだけど。
春永さんの両肩を掴んでガックンガックン揺らす三角さんからディナに視線を移す。
「……いえ、一応聞きましたのよ? なにをするつもりなのか。でも言葉でなく行動で答えられてしまって……これ
「いや……強いて言うなら、二人の噛み合わせかな……?」
「そんなことより火、いいの?」
「はっ! そうだった!」
春永さんの問いに飛び上がるようにして焚き火台へ移る三角さん。その目はまるで我が子を慈しむよう。
「うふ、うふふふっ! ゆっくり大きくなるんだよ〜」
慈しみすぎかもしれない。
そういえばどこかで火が好きだって聞いたような……。
「えっと、うちわとかあったら扇ぐの手伝うよ」
「なに言ってるの多々良くん! 風を送るのは消えちゃいそうなときに、そっと支えるくらいでいいの!」
「えっ、ご、ごめん」
結構強めに怒られた。今日あまり働けてないからせめてと思ったけど、逆効果だったらしい。
じゃあせめてすぐに調理に取り組めるよう、食材や調理器具のほうでなにかできることはないかな。
そう思った時にはすでに春永さんとディナがなにかに取り組んでいた。
しまった、出遅れた!
「準備できた」
「うん! じゃあ手筈通りに」
春永さんが告げ、三角さんが答える。
どうしよう、このままじゃ今日本当にただのお荷物になっちゃ――
――テレレッテ♪ テンテレレン♪
――テレレッテ♪ テンテレレン♪
「えっ」
「はい?」
突如、いつの間にか春永さんのスマホに接続されていたミニスピーカーから流れ出すメロディー。
真顔の春永さん。呆ける俺とディナ。
そこに更なる混乱をもたらす三角さん。
「三角陽香のキャンプクッキング! はっじまっるよー!」
なんか始まった!
「まず取り出しますはこれ! メスティン!」
「メスティンってなーにー」
「メスティンは飯ごうの一種だよ! 飯ごうでありながらお米を炊く以外にも煮る! 炒める! 何でもできちゃう優れもの!」
待って待ってついていけてない!
なんで料理番組風のノリなの!?
春永さんはなんで急にBGM鳴らしだしたの!? 今の棒読みの質問なに!?
なんでずっと真顔なの!? ノッてるの!? ノッてないの!?
メインの三角さんより春永さんがシュールすぎて目が離せない!
「今日はメスティンでパスタを作るよ!」
「わー」
「わー!」
あっ! ディナが考えるのをやめた!
くっ……このテンション、一人取り残されるほうがつらい!
「わ、わー!」
「オーディエンスのノリがよくて私も嬉しいよ! それじゃあ、早速主役の登場だー! その名も水漬けパスタ!」
「水漬けパスタってなんですのー?」
あっずるい! 質問とられた!
「いい質問だよお嬢! 水漬けパスタはその名の通り、水に浸けておいたパスタのこと! 水を吸って生パスタみたいな食感になるし、茹で時間も短くなるから便利だよ!」
「「わ〜便利(ですわね)〜!」」
あっ、今度は春永さんが混ざらなくなった。
あいつらがやるから私はいっか、みたいなこと考えてそう。
「そして次は具材の登場だー! ウインナー! 玉ねぎ! ピーマン! 全部スライスして冷凍済みだよ!」
「わ〜準備万端だ〜」
「そう! 多々良くん! キャンプ飯はいかに事前に仕込みを済まし、現地での手間を減らすかが重要なんだよ! いい合いの手だったから陽香ポイントあげちゃう!」
わーい! なにに使うのかわかんないけどやったー!
「この具材を油を敷いたメスティンでケチャップと一緒に炒める! 炒めたら水漬けパスタを加えてまた炒める! そして塩で味を整えたらナポリタンの完成だよ!」
「「わー! かんたーん!」」
賑やかし役に徹すること十数分。
四人分のナポリタンが出来上がった。
調理は全て三角さんが一人で済ませてしまったのに、なんだろう。
すごく、疲れた。
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