異なる世界の死者を愛する少年が生者たる女性を愛するに至るまで

聖艦隊ドM千雨ちゃん

取り憑く死霊を愛する若きハンター《冒険者》


 僕の中には独りの女性が居る。

 彼女は曰く、僕に取り憑いた異なる世界からやって来た死者の霊だそうだ。

 そんな彼女は僕に様々な知識と身体の鍛え方や彼女の生きた世界での武器の扱いも含めた戦い方を教えてくれたし、困った時には相談にも乗ってくれた。

 彼女が言うには僕の中に住む為の対価、家賃とやらのつもりだそうだ。

 その御蔭で僕は知識と生きる術を得る事が出来て、あの臭くて汚い貧困に満ちた所から脱する事が出来たし、知識によって愉しみが増えた。

 そんな彼女が僕にとって、初恋の人になるのに時間は掛からなかった。

 でも、彼女は僕の恋心を理解した上で拒絶した。

 曰く……


 「生者は生者とだけ付き合うのが世のことわり。私の様な死者に恋心を抱いては駄目。貴方は今を生きる人間だからこそ、貴方と同じ様に今を生きる人を愛しなさい」

 

 子供の僕には未だ解らない。

 誰かを好きになるのは悪い事じゃないと思う。例え、僕に取り憑いた謎の存在であっても……

 でも、同時に彼女の言う通りなんだろう……とも思う。

 だけど、僕は僕の師であり、初恋の人でもある彼女と過ごすのが何よりも大好きだ。

 だからこそ、僕の我儘だけど彼女の意志に反して愛し続けたい。と、僕はそう思っている。





 戦闘服とプレートキャリア等の装備に身を包んだ15歳の少年……ウィルはゴブリン達の根城と化した洞窟の中に居た。

 真っ暗闇に包まれる洞窟の中をウィルは今は彼女が与えてくれたモノの1つであるFASTヘルメットと、FASTヘルメットに取り付けられた暗視ゴーグル……ENVG-Sを通して見通すと共に、フラッシュライトとPEQ-15レーザーユニットや太く長い大型のサプレッサー等が取り付けられたガイズリーのURG-Iを手にゆっくりと歩みを進めて行く。

 そんな中、正面。約15メートル先に3匹の異なる武器を携えたゴブリンが現れた。

 ウィルは平然とレーザーユニットから放たれる不可視のレーザーを手斧を握る先頭のゴブリンの頭に合わせると、引金を静かに引く。

 静かな銃声と共に1発のM855A1と呼ばれる米軍の5.56ミリNATO弾が放たれると、先頭のゴブリンの頭が弾け、頭の中身をブチ撒けながら倒れた。即死だ。

 そんな先頭のゴブリンが何の前触れも無く死んだ事に他の2匹が驚き始めると、ウィルは間髪入れずに2匹目の弓を持ったゴブリンの頭にレーザーを合わせ、引金を引く。

 再び静かな銃声がすると同時。2匹目の頭が弾け、死んだ。

 棍棒を持った3匹目が仲間の死に恐怖し、背を向けて逃げ出そうとする。

 だが、ソレよりも早く3発目の5.56ミリNATO弾が放たれれば、3匹目のゴブリンは後頭部から撃ち抜かれて前のめりに倒れて動かなくなった。

 ソレは僅か2秒にも満たない短時間での出来事であった。

 3匹のゴブリンを文字通り秒殺したウィルはゴブリンの屍の向こうをジッと見据えて残心の如く警戒。前方が安全であると確認すれば、後方をチラッと残心の如く一瞥して敵が居ない事を確認する。

 完全に安全である事を確認し終えたウィルは内心で自分の技量に対し、不満を感じていた。


 (やっぱり、レインと比べたら僕の射撃は全然駄目だ。レインならもっと早い上に正確に撃ち抜いてる)


 レイン……ソレはウィルが幼き頃からウィルの中に住んでいる憑依している異なる世界からやって来た死霊であり、ウィルにとって師。そして、ウィルの初恋の相手とも言える女性であった。

 そんな彼女の技量を実際に何度も目の当たりにして居たからこそ、ウィルは自分の技量が未だに未熟であると感じてしまう。

 しかし、ウィルの技量を目の当たりにした戦いの師たる彼女はウィルの想いを知ってか? 知らずか? 称賛の声を掛けた。


 「貴方の技量は充分過ぎると言っても良いレベルよ。今の貴方の前に生きて立ち続けられる敵は居ない程にね」


 ウィルの頭の中で女性の声がした。

 そんな声に対し、正面を見据えると共に警戒しながら返す。


 「でも、レインならもっと早く倒してるだろ?」


 「そうでもないわよ。今の貴方と同じ頃の私と比べたら十分速いわ」


 「僕はそう思えないかな」


 自信無さそうに返すと、ウィルは静かに闇と同化するかの如く足音を立てる事無く歩みを進める。

 歩みを進める途中、ゴブリンに遭遇すれば立ち止まると同時に素早く静かな銃声と共に頭をブチ抜いて殺害。その後、前方と後方を警戒して安全を確認してから再び歩みを進めた。

 そんな見栄えも華やかさも一切無い地味ながらも必殺と安全を確実なモノとする動作を3度か繰り返し、合わせて14匹のゴブリンを殺害したウィル。

 そんな彼は静かにその場にしゃがむと正面を見据えて警戒しながら、今着ている戦闘服の上に纏ったプレートキャリアのマグポーチ弾嚢に左手を伸ばし、MAGPUL製の40連弾倉を抜き取る。

 左手で40発の5.56ミリNATO弾が詰まった弾倉を持ったまま、URG-Iに装着された弾が中途半端に残る弾倉を掴む。それから、右の人差し指でマガジンキャッチを押すと共に弾倉を抜き取って左脇のダンプポーチに入れると、予備の弾倉を手早く突っ込んでリロードを済ませた。

 リロードを済ませると共にゆっくりと立ち上がったウィルは、再び歩みを進めて行く。

 道すがらゴブリンと遭遇する度に確実に射殺しながら歩みを進めて行く内、洞窟の最奥とも言える広い場所の手前までやって来た。

 ウィルは静かにその場で俯せになると、ゆっくりと静かに這い進んで匍匐前進行く。

 程無くして止まれば、ソッと顔を上げて暗視ゴーグルを介して洞窟の最奥をジッと見詰める。

 

 (敵の数は7。人質は無し)


 最奥内の敵であるゴブリンの数と救出すべき人質の有無を確認したウィルは腰からM67破片手榴弾を掴み取ると、安全ピンを抜いてゴブリン達の方へと放り込み、耳を塞いだ。

 投げ込まれたM67が鼓膜を破らんばかりの耳を劈く爆発音と共に辺りに衝撃波を伴った爆風と無数の鉄片をブチ撒ければ、中に居た何も知らぬゴブリン達は全身を爆風で殴り付けられた上に飛び散った無数の鉄片でズタズタに斬り裂かれて倒れる。

 そうして、爆発が収まると同時。ウィルは即座にURG-Iを携えて立ち上がり、ゴブリン達の死を確実なモノとする為に勢い良く突入した。

 結果から言えば、中に居たゴブリン達はたった1発のM67破片手榴弾によって全滅していた。

 だが、ソレでもウィルは用心深く周囲を見廻して警戒し、他にもゴブリンが居ないか? 確認する。

 他にもゴブリンが居ない事を確認すれば、地面に倒れて動かなくなった夥しい血で辺りを濡らし、死臭を漂わせるゴブリン達を1匹ずつ蹴って生死を確認して行く。

 程無くして倒れたまま動かないゴブリン達の死が完全なモノである事を確認し終えると、ウィルは更に奥へと歩みを進める。

 奥に立て掛けられた板の前に立ち、その周辺を入念に見廻してトラップの有無をキチンと確認すると、レインに語り掛ける。


 「シグレ」


 彼女の名前を呼ぶと同時にウィルがM4A1を構えると、ウィルより僅かに背の高い黒髪の肌の色が白人のウィルとは異なる戦闘服姿の若い女……レインが現れる。

 レインは板の脇に立つと、手で板を掴んで引き倒した。

 板が引き倒されると共に中から子供よりも小さな人の形をした生き物……ゴブリンの子供達が露わとなる。

 そんなゴブリンの子供達に対し、ウィルは容赦無く子供の数だけ引金を引いた。

 サプレッサー越しの静かな銃声が止んで辺りに硝煙と死臭が強く漂う頃には、ゴブリンの子供達は惨たらしい肉片と化して死んだ。文字通りの皆殺しだ。


 「コレで終わりかな?」


 ダンプバックに中途半端に弾が残る弾倉を放り込んだウィルが言うと、レインが窘める様に言う。


 「油断しないの。帰って報告済ませ、報酬を受け取るまでが仕事よ」


 「じゃ、中に取り零しが居ないか? 確認しよ」


 暢気にそう返したウィルは周囲を用心深く見廻して敵が居ない事を確認すると、その場を後にする。

 その後、洞窟内に取り零した敵が居ない事を用心深く完全に確認すれば、洞窟から外に出た。

 外は未だ明るく、空を見上げると、太陽も未だ高い位置にあった。

 暗視ゴーグルとレーザーユニットの電源を切ってFASTヘルメットを脱ぎ、汗をタオルで拭うウィルにレインは尋ねる。


 「所で、あの件はどうするの?」


 シグレからの問いに心当たりが有るからか? ウィルは汗を拭う手を止めて答える。


 「あの件? あぁ、学園卒業した後、貴族様達の子供達が通ってる学園に進学する話か……正直言うと、気が進まないよ。平民の僕にすれば、学費の工面が大変だし、貴族様達の中でやってけるか? と、聞かれたら自信無いし」


 ウィルはハンター冒険者として日々の糧を得ると同時に、この国の平民向けの学園に通う二足の草鞋の生活をしていた。

 そんなウィルはレインと恩師である老人からの薫陶も相まって優秀な成績で卒業見込みがあり、学園の教師陣とウィルの恩師たる老人から、この国に於ける最高学府たる学園への入学しろ。そう打診されて居た。

 だが、その最高学府たる学園の生徒達は、何れはこの国の政治と経済の舵取りをする事になるだろう貴族ばかり。

 そんな中で平民のウィルは学費の工面も含め、やっていけるのか? 不安が有るからこそ、気が進まない。と、言うのが正直な本音と言えた。

 気が進まないウィルにレインは言う。


 「学費の方はメイゼルさんが援助してくれるんだから、気兼ねなく通えば良いじゃない」


 レインの言う通り、メイゼル……ウィルの恩師であり、若い頃は王宮に勤めて居たと言う隠居老人はウィルの学費を援助してくれる事を確約してくれていた。

 しかし……


 「そうだけどさ……メイゼルさんのお世話になりっぱなしなのも気が引けるんだ」


 赤子の頃から両親の居ない孤児である自分を引き取り、育ててくれた恩師であるメイゼル。

 恩師であるメイゼル老に何から何まで助けられている事にウィルは子供ながらに内心で申し訳無さがあった。まぁ、ソレ以外にも多数のヤラかしはあるが……

 それ故にウィルは負担を強いるであろう進学に気が進まないで居た。

 そんなウィルにレインは言う。


 「ガキがそんな心配しなくて良いのよ。援助してくれるって言うんだから、ありがたく貰っておきなさい。それにね、カネを稼ぐ手段を手っ取り早く獲たいなら、先ずは学問を学んで教養を身に着ける事が先決。そして、大概の場合そんなチャンスは早々巡って来ないのも現実……貴方はチャンスに恵まれてる。なら、そのチャンスを利用して人生を良いモノにするべきよ」


 レインのウィルの背を押さんとする前向きな言葉にウィルは暢気に返した。


 「正直、僕には野心とかそう言うのは無い。でも、この国の最高学府で学ぶチャンスをふいにしたくないって気持ちもある」


 「だったら、進学しなさい。運が良ければ人脈を作る事が出来るし、その人脈は何れ貴方を助けるわ」


 人生の先輩とも言える大人として、少年へ優しくアドバイスしたレインにウィルは「なら、行ってみるよ」 そう暢気に返すと、水筒の水を一口飲んで喉を潤し、洞窟の入口の脇に置いていたバックパックを背負って森の中へと歩き出す。

 30分ほど歩みを進めて森を抜けて平原に出ると、道に沿って更に進む。

 15分ほど歩みを進めれば、田畑と共に小さな村が見えて来た。

 ウィルは村の中に入ると、村の奥にある村長の家へと歩みを進める。

 村長の家の前に立ったウィルが扉をノックすると、程無くして扉が開き、村の村長である老人が現れた。

 そんな村長にウィルは簡潔に報告する。


 「ゴブリン退治完了しました」


 「もう終わったのですか!? 出立してから1時間も経ってないのに!?」


 驚く村長にウィルはアッケラカンに告げる。


 「えぇ、森の中の洞窟に居た子供も含めた38匹のゴブリンを殺害しました。洞窟内に死体は残っておりますので確認したいならば、どうぞ」


 そんなウィルの嘘偽りの無い報告に村長は訝しむ。

 だが、村長は疑いを棄てて感謝する。


 「ありがとうございます」


 感謝の言葉を受けたウィルは「では、失礼します」 と、言い残して踵を返し、歩き出した。

 村を後にして明るい街道を進んで行くウィルにレインが語り掛ける。


 「この後はどうするの?」


 「先ずは報告済ませて報酬を受け取る。で、装備を手入れしてから仕事を請け負うか? 訓練するか? 決めるよ。未だお昼過ぎだし……」


 ハンター冒険者と言うのは、ハンター冒険者個人ならびに一党パーティーの裁量で仕事を更に請け負うか? 休むか? 自由に決める事が出来る。

 ハンターギルドからの公式な命令が下達されない限り、実質自由業なのがハンター冒険者と言う稼業。

 ソレ故に単独で仕事するウィルは、どうすべきか? ギルドからの命令下達が無い限り、自分で好き勝手に決められる。

 そんなウィルにレインは尋ねる。


 「訓練するなら何を訓練するの?」


 「そうだね……メイゼルさんの所で魔法の勉強するよ。後、可能なら格闘訓練もしたいかな……僕、白兵戦苦手だし」


 返って来た答えにレインは「ソレが良いわね」 と、返すと更に続けて尋ねた。


 「学園を卒業した後、何かしたい事は決まってる?」


 進路とも言える未来の話にウィルは今想ってる事を答える。


 「正直、何がしたいか? って言うのは未だ無いんだ。英雄譚みたいに成り上がりたいって気持ちは有る。僕も男の子だからさ……でも、知識を得ると共に現実を知ると、僕には荷が重過ぎるって思うと同時に、そんなチャンスが巡って来て欲しくない。と、思ってもいるんだ」


 ウィルの正直な気持ちが込められた答えはレインにとって好ましいと思う反面、レインが生きた現代地球から見て、子供の如く若いこの世界では些か気弱なモノを感じた。

 だが、レインはウィルを責める事は無かった。


 「まぁ、時間はタップリ有るわ。ノンビリと何がしたいのか? 模索してみるのも良いわね……でも、時間はタップリ有っても無限じゃない。キチンと何がしたいのか? 真剣に考えなさい」


 「卒業まで3年有るから、その間に見付かると思いたいかな……」


 宛のない答えにレインはそれ以上の事は言わなかった。

 そんなレインに今度はウィルが尋ねる。


 「そういえば……レインは生きていた頃、何かしたいって夢は有ったの?」


 「そりゃあ有ったわよ。でも、ソレは果たせなかったわ」


 「どんな夢なの?」


 その問いにレインは、にこやかに答えた。


 「秘密」


 返って来た答えにウィルは不満を漏らす。


 「何だよ。教えてくれたって良いじゃん」


 「乙女の秘密を検索する男は嫌われるわよ」


 レインの言葉にウィルは不満そうにしながらも、コレ以上の事は聞こうとはしなかった。

 その後は他愛の無い会話をしながら街道を歩んで行く。

 1時間も歩けば、自分の住む故郷でもあるトゥーレの王都が見えて来た。

 王都に入り、多数の人々で賑わう中を進むウィルは、剣とコンパスの意匠が施された看板が掲げられた建物……ハンターギルドへと入っていく。

 中は広く、疎らながらも複数の人々が居た。

 そんなハンターギルド内の奥にある受付に赴くと、ハンターギルドの職員である受付嬢が声を掛けて来る。


 「お疲れ様です。ウィルさん」


 にこやかに語り掛けて来た受付嬢にウィルはゴブリン退治の依頼を完了させた旨の報告をすると、受付嬢から尋ねられた質問に対し、ハキハキと答えていく。

 そうして、依頼に関する報告が済めば、報酬である銀貨の詰まった小さな皮袋が受付嬢から渡された。

 報酬を受け取ったウィルは受付嬢に「ありがとうございます」 と、礼儀正しく感謝の言葉を述べて受付を後にすると、 壁に取り付けられた掲示板へと赴く。

 掲示板には残った仕事の依頼書が何枚か残っていた。

 そんな依頼書を眺めていると、ウィルの背後から足音と共に近付いて来る気配があった。

 足音と気配の主はウィルの肩をポンと軽く叩くと共に語り掛ける。


 「よぉ! ウィル坊。仕事探してるのか?」


 語り掛けて来たのはハンターになりたてのヒヨッコの頃、お世話になった中年の先輩ハンターであった。

 そんな先輩ハンターにウィルは礼儀正しく挨拶すると共に答える。


 「こんにちわ、タイラーさん。ゴブリン退治が直ぐに終わったので、もっと稼ごうか? どうしようか? 考えてまして……」


 ウィルから返って来た答えにタイラーと呼ばれた先輩ハンターは尋ねる。


 「なら、俺達の手伝いしないか? 俺達、コレから教会の奴等を護衛するんだけどよ……腕の良い奴が欲しくてな」


 タイラーからの仕事の誘いにウィルは快諾した。


 「良いですよ。でも、仕事終えたばかりなので準備に時間を下さい」


 「30分後に出発するから、20分までにギルドに来てくれ。迎えに行くからよ」


 「解りました。では、後で」


 タイラーと別れたウィルはハンターギルドを後にすると、今の自宅へと歩みを進める。

 5分後、自宅であるアパートとも言える集合住宅に着くと、ウィルは中に入って自分の住む部屋へと赴く。

 自室に入ったウィルはダンプバック内にある中途半端に弾が残る40連弾倉に弾を込めて補充すると、素焼きの水瓶に貯めている水を水筒に補充していく。

 その後、慣れた手付きで手早くURG-Iを分解し、火薬煤で汚れた部品をガンオイルに浸したブラシ等で清掃すると共に目視点検。

 そんな清掃と点検が終われば、1分も掛けずにURG-Iを素早く組み立て、動作点検。

 動作点検を一通り済ませて異常が無い事を確認したウィルは部屋を後にすると、ハンターギルドへと向かった。


 「おう、早かったな」


 「急いで来ましたから。で、行き先は何処なんです?」


 指定した時間の5分前に来たウィルから輸送先を問われたタイラーが「向かいながら話そう」 と、告げれば2人はハンターギルドを後にして、人々で賑わう王都の中を歩み始める。


 「行き先は西にある水の都。其処の神殿だ」


 タイラーから荷を運ぶ馬車の行き先を聞けば、ウィルは珍しそうに呟く。


 「珍しいですね。ウチ等みたいなハンターが神殿に荷物を運ぶなんて……」


 疑問を覚えるウィルにタイラーは呆れ混じりに答えた。


 「その原因はお前さん何だけどな……」


 タイラーの言葉にウィルが益々首を傾げて言葉を用いる事無く「解らない」 と返せば、タイラーは言う。


 「3日前。お前さんは石板を持ち帰って来ただろ?」


 「3日前? あー……思い出しました。盗賊退治した時に見付けたアレかぁ……」


 心当たりが有ったウィルは思い出す。

 3日前……ウィルは生活の糧を得る為にハンターとして、盗賊退治の仕事を請け負った。

 結果から言うなら、盗賊達を皆殺しにする事は容易く終わった。

 だが、盗賊達がアジトにしていた廃教会を調べた所、地下へ通ずる隠し階段を見付けた。

 隠れ潜む残敵とも言える盗賊達が居ないか? 居た場合は確実に殺す為、その地下へと向かった。

 その地下で盗賊達の代わりに何枚かの石板を見付けたウィルはハンターギルドに持ち帰り、ハンターギルドは廃教会の地下に有ったとの報告から教会に提出した。


 「で、教会の連中が詳しく調べる為に専門家が居る水の都の神殿に運んで欲しい……と、言う事になった訳だ」


 タイラーから、自分がこの護衛依頼のキッカケとなった事を聴いたウィルは「何か詩的ですね」 そう他人事の様に言うと、タイラーは更に続けて言う。


 「その御蔭で割の良い仕事が出来たんだ。お前さんには感謝してるぜ、ウィル坊」


 「なら、キチンと分け前払って下さいよ……僕、3ヶ月後には稼げなくなるかもしれないんで」


 ウィルの言葉に心当たりがあったタイラーは確認も兼ねて尋ねる。


 「て、事はウィル坊はお貴族様達の通う例の学園に入学するって事か?」


 タイラーの問いにウィルは肯定する。


 「メイゼルさんからも勧められても居ますからね……」


 「メイゼル爺さんから勧められてるってんなら、拒否する訳には行かねぇわな……ま、頑張れや」


 「ありがとうございます」


 そんな会話をしながら王都の中心にある教会に着くと、幌馬車の周りには剣や弓で武装した年配のハンター達の姿があった。

 ハンター達はウィルの姿を見ると、にこやかに声を掛けて来た。


 「よぉ! ウィル坊!」


 「景気はどうだ?」


 「偶には俺達と一緒に稼ごうぜ」


 そんな声にウィルがにこやかに返して居ると、 タイラーはハンター達に問う。


 「石板は積んだのか?」


 「今、神父とセットで積んだ所さ……」


 返って来た答えにタイラーは護衛チームの長として指示を飛ばす。


 「じゃあ、ウィル坊とハンスは上に上がって前方警戒。それ以外は荷台で待機だ」


  その指示と共にハンター達は幌馬車に乗り込み始めた。

 バックパックを幌馬車内に放り込んでURG-Iを手にするウィルと、ハンスと呼ばれたウィルよりも幾つか歳上の青年は幌馬車の上に登って立つと同時、御者台から響く鞭の音と共に幌馬車はゆっくりと動き出し、王都の中で多数の人々を掻き分けて進んで行く。

 そして、王都を後にするのであった。



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