その頃 つまらない社交界 アンドレア皇太子Side

 その頃 つまらない社交界 アンドレア皇太子 俺の生きる19世紀後半は農業不況に喘ぐ時代だ。


 色々な策士が貴族社会で生き残るための策略を練っている。俺はそれらに巻き込まれる立場にある。皇太子は生まれながらに特権を持つ。特に、クイーンズマディーノモベリー公爵家をはじめとする権力者たちは、沈み始めた絶対的経済基盤をなんとかしようと足掻いている。彼らは、所領を生かす方向に頭を使うべきだが、俺の妻候補に自分の家族を差し出すことに躍起になっている。


 今の婚約者のパトリシアは現クイーンズマディーノモベリー公爵の姪だ。それを面白くないと思う連中はいる。


 成長した胸を強調する大きく開いたデコルテ、ぽってりとした唇、なで肩、小さな袖から連なるウェストラインは腰の細さを強調し、スカートはふわりと膨らんでいる。流行のドレスに身を包んだパトリシアが俺に微笑む。


 ぜっんぜっんそそられない。

 つまらない。

 

 俺はため息を隠すために、窓の外の景色を見つめた。


 雪がおおう大地の上に、1番星が輝く星空が出ているだろう。


 あぁ、あの秘密の隠れ家に行きたい。雪深い今は、辺りはしんしんと静まり返り、深淵な静けさを感じられるだろう。


 こんな社交なぞクソ喰らえだ。


 俺が本気で恋をする相手はどこにいるのだろう?


 こんな人生は本物じゃないと、どこかで自分がささやく声がする。

 

 あの泉に逃げて行きたい。一人になりたい。


 また誰かがメッツロイトン男爵家の噂をして、嘲笑っている。貴族社会の鼻つまみ者、嫌われ者がメッツロイトン男爵家だ。当主もその息子の次期当主候補も、ガラクタとしか思えない石に取り憑かれて、世界中を旅してばかりいると聞く。かつては繁栄を遂げていたはずの所領の多くは抵当に入り、負債に喘ぐと聞く。


 だが、人のことは放っておけ。

 

 俺は詰まらない社交の場を逃げ出すことばかり考えていた。



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