03 1度目のループ(0)
ヴィクトリア女王がイングランドを率いて繁栄を遂げているのを横目で眺めつつも、その繁栄に憧れを抱いて追いかけようとするヴィーラの国で、私の物語は進んでいる。ヴィーラはザックリードハルトとパリの間にある大国だ。
18歳のジェニファー・ロッツメイトンである私は、新たな人生を歩き始めていた。生きるか死ぬかのドキドキの人生だ。
そもそも、私は転生者だ。前世では別の時代で生きる36歳のワーキングマザーで、家計は苦しく、本当にお金はなかった。会社が高い給料を支払うわけでもなく、物価も高く、生活は苦しかった記憶がある。
つまりは、私はどちらの世界でもお金が無い。
今は何者でもない、私はただの没落令嬢だ。かつて栄華を極めた広大な敷地を誇る実家のメッツロイトン男爵家は、今まさに朽ち果てようとしている。
実家のメッツロイトン男爵家は、没落が始まってから10年は経過しており、広大なカントリーハウスは抵当に入り、手入れが追いつかず、もはや幽霊屋敷と化してしまっていた。父と兄の特筆すべき能力は見向きもされず、見放されたようにメッツロイトン家が倒れて行くのを、ただただ手をこまねいて見ているだけに成り下がっていた。
実家を再建する方法はまだ見つかっていないが、私は死に戻って以来、必ず再建の方法を見つけようと毎日模索していた。
そして、生きるか死ぬかの人生を制すために、自分の死に関しての謎を解明するために、私はリーヴァイ・ドヴォラリティー伯爵と協力して、毒物の匂いに関する書物を調べていた。
既に2人で訪ねた博士や貴族の方々の家は数十にのぼった。私が過去にループする直前に嗅いだ独特の匂いが、何の毒物で私たちが殺されたのかを知る手掛かりになると考えたのだ。
今日も、ドヴォラリティー伯爵の
「ここにある薬の匂いではないと思う」
私はため息をつきながら、広げた書物を閉じて積み重ねた。
ジェニファー・ロッツメイトンの生きるこの世界では、書物は多少値の張るものに該当し、ネットで探して注文するということはできない。書物を所有する富裕層の家に、こうして馬車で訪ねて回るのが関の山だった。ドヴォラリティー伯爵にお金があるからと言って、お金で何でも手に入る世界でもなかった。
「もうすぐ、最初の時に前夫に初めて会った日が訪れるの。場所と時間は分かっているのよ。覚えているから。秘密の場所なのだけれど、必ずそこに前夫は来ると思うの。そこに行って、かつての……いえ……未来の夫に出会って見ようと思うの」
私は夫が大好きだった場所を思い描いていた。
丁重に礼を言って、ビーチナッツホールを辞して馬車に乗り込んだ。
「いきなり会っても大丈夫?」
「大丈夫だと思う。彼は私のことをまだ知らない。初対面になるのだけれど、没落令嬢が何のつてもなく彼と知り合うには、やはりあの時間と場所を狙うのが良いと思うのよ」
馬車はドヴォラリティー伯爵の屋敷に向かっていた。
「最初のやり直しについて、話してくれる?君は今回が2回目のやり直しだと言ったよね?」
馬車の中でリーヴァイ・ドヴォラリティー伯爵は私に聞いた。
「いいわ」
「今日の分も含めて、調べた薬物のリストをまとめながら、僕の屋敷で話そう」
私はうなずいた。
この話はきっと泣いてしまうから。
気分が落ちてしまって、立ち直るのに時間を要すので、できれば落ち着いた場所で話したい。私の母には知られたくない話なのだから。
彼の屋敷で話すのは問題ないと思った。
リーヴァイ・ドヴォラリティーにしか打ち明けない、最初のループの話だ。アツアツの新婚生活は過ぎて、可愛い子供達に恵まれた結果、ある日突然27歳の美しいアンドレア皇太子に捨てられた。
宮殿を出て、メッツロイトン家に向かう途中、馬車が大破してスローモーションで崖から下に落ちる瞬間を思い出す。煙が充満して、嗅いだこともない匂いが充満していた。
この時も、私は死に戻った。
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