第9話 ヨカゲシノブの心

 大量のライトを浴び舞い歌っている。

 そこにがいた。

 世間ネットや社会では『ヨカゲシノブ』の呼び名ハンドルで知られているVirtual Idolネットアイドルそれが今のわたしだ。


 なのに今やわたしと関係ないところで、『ヨカゲシノブ』活動している。

 その現状を回避したくて悩むわたしのもとに彼女が現れた。

 鳴らされる部屋のインターホン越しに応対すると、古物商こぶつあきないの回天堂と名乗る女性。

「ご要件は何かしら?」

 わたしは平静を装って話を進める。

[『ヨカゲシノブ』の件、って言えばわかりますかね?]

 特に気兼ねしていないような声だが、『ヨカゲシノブ』と言う言葉にわたしはドキリとすると同時に、天にも舞う気持ちになった。

 ついにわたしは救済されるのだ。

 喜びで叫びたい気分を押し殺し、わたしは女性を部屋に上げた。

 彼女は声のとおり20歳前後、会社員らしくスーツ姿。

 ただ、腕につけた大きめのが点灯しているのが気になった。

「突然のアポ無し訪問となり、大変申し訳ありません。」

「いえいえ、とんでもありません。 普段、人が来ないので散らかっていますが……。」

 席に座ると同時に深々と頭を下げる彼女にわたしも慌てて頭を下げる。

「それで、なんで『ヨカゲシノブ』の事を聞きにわたしのところへ?」

 思わず卑屈な態度で聞いてしまう。

 世間が見る『ヨカゲシノブ』とわたしではその姿は大きく異なっている。

 それがコンプレックスで外にも出られなくなったのだから。

「そうですね……、わたしもどこから話せば良いか考えていたんです。」

 少しはにかんだような笑顔を見せる彼女。

 健康的な若手女性社員と言った感じで好感が持てた。

「はあ……。」

 ただ、わたしから出たのはなんとも愛想のない言葉だけ。

 『ヨカゲシノブ』ならもっと気の利いたことが言えただろう。

 そう思えるほどわたしは『ヨカゲシノブ』にコンプレックスを持っていた。

 自分自身なのに、自分に無いものをすべて持っている『ヨカゲシノブ』に。

「では、1からお話したほうがいいですね。」

 女性が話しを始めた。

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