第7話 不安の夜

 いやホント、面倒くさいことになったなぁ。

 KAGURAの社長の言葉を聞いたわたしが最初に思ったことだ。

 研究対象でしかなかった傀儡舞を私的に利用した上、そこから次の問題が発生しているなんて想定外もいいところだ。

 絶対に時給と経費以外に(課長個人から)追加料金を払わせてやる。

 わたしが憤りを発散させるためにそんな妄想を展開していると、携帯端末がコールしていることに気がついた。

 端末を見れば知らない番号。

 この仕事をしていると、往々にこんなことがある。

(社外秘の秘匿回線じゃなかったのかよ。)

 そんな事を思いながらも、これまでに『知らない番号』からの着信でことが進展した経験がある。

「もしもし。」

 一瞬、躊躇した後に応答する。

[っ、す、すみません。ワタシわかりますか?]

 聞こえてきたのは若い、恐らくわたしと同じ位の歳の女性の声。

 聞いたことが有る声だ。

 わたしは素早く人気の少ない脇道に入る。

 なるべく他人に聞かれないほうが安全だろうと言う判断からだ。

 周囲を十分に警戒しつつわたしは再度、返答する。

「『ヨカゲシノブ』さんね。」

 わたしは相手に確認を投げる。

 さきほど、事務所でモニター越しに会話した時に比べて随分おとなしい印象だ。

 ……まぁ、あんな話しを聞かされれば不安にもなるだろう。

[は、はい。 多分あなたの思っている『ヨカゲシノブ』です。]

 そう返ってくる言葉に、わたしはほんの少し危機感を感じた。

 自分のではなく『彼女ヨカゲシノブ』のだ。

 下手をすればアイデンティティの喪失により、自我が崩壊しかねない。

「ご要件は何かしら、わたしが力になれること?」

 わたしはその点を注意しながら話しを続けることにした。

 この際、秘匿回線の番号をどうやって知ったかなんて相手が相手だけに些細なことだ。

[正直、あなたに相談するのが適切なのかは分からないです。]

 まあ、そうだろうなぁ。

 内容は大体察しがついてるが、わたしはその方面の専門家じゃない。

 だけど……。

[だけど、会社以外の人に相談したいんですけど、この事を知っているのはあなたしかいないから……。]

 ……そうなのだ。

 KAGURAの関係者以外で傀儡舞の件の顛末を知っているわたしだけ。

 内容が内容だけに事情を知らない人に相談しにくい訳だ。

 そこでわたしは少しだけ身の上話をすることにした。

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