第63話
2人が口を離した瞬間、伊織のスマホが鳴る。
伊織が確認すると、着信だった。
「ごめん、ちょっと出るわ。」
「うん。」
「もしもし.......さり.....。」
「そこに玲蘭ちゃんいる?いないなら呼んできてハンズフリーにしてくれる?」
「いや、今ちょうどいるけど。」
「じゃあ、ハンズフリーにして?」
伊織は言う通りにした。
すると、優しいギターの音が聞こえてきた。
そして、さりなが歌い始める。
さりなの声を初めて聴いた玲蘭は驚いた。
透き通ったよく響く声。
聞いていて心地よくなる。
そして、聞いていると、自然と涙が流れてきた。
歌詞が切ないのだ。
そして、すごく、心を打たれた。
希望をくれた君、今はもう、同じ羽根はないけど
この気持ちだけは永遠に
持ち続けよう
さりなの声が2人に、yellを送っているかのようだった。
伊織も聴きながら、涙を無防備に流した。
一曲終わり、しばらく、電話の向こうはしんとした。
「どうだった?」
涙を拭って、玲蘭は、伊織のスマホに語りかけた。
「すごく、良かった!」
「伊織。この曲、完成じゃないのよ。
伊織のベースがないと、Ailes de rêveはなりたたないんだから!
辞めるなんて許さないからね。
今日は楓が喧嘩売ったりして、言えなかったけど、私、彼女じゃなくてもいいから、伊織のそばで、歌いたいの。
だから。
だから......。
辞めるなんて、許さないから。」
「伊織。明日も昨日のスタジオ押さえた!
13時に来いよな。あとで、楓がスコア送るから。練習ちょっとしてきてほしい。」
洋一も語りかけてくる。
「じゃあな。」
一方的な電話は切れた。
「いい曲だったね。なんて曲なんだろう。」
「スコア、来てる。」
「本当?」
「Ailes de rêve....バンド名じゃん。」
「夢の羽根か。ロマンティックだね。」
玲蘭が、言うと伊織は頷いた。
「バンド、続けるよね?」
「うん。」
玲蘭はそのあと、すぐに部屋に戻った。
伊織は音を出さないようにして、その後も、ベースを弾いていた。
新しい曲を明日にでも弾けるように。
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