第59話

玲蘭は駅前のカフェで紅茶を頼んで、とりあえず参考書を出した。




勉強しようとしているのに、全然頭が働かない。





伊織とのこれからのことを考えてしまう。





そんな玲蘭を、さりなはたまたま、見かけてしまい、一度はカフェの前を通り過ぎるが、足を止めて、カフェに入る。




「雨宮さん......。」




さりなの呼びかけに反応して玲蘭は顔を上げた。




「逢沢さん.....!!」




「となり、いい?」




玲蘭は恐る恐る頷いた。




しばらくすると、さりなはスムージーと甘いケーキを頼んで、持ってきた。




窓際のガラス張りの席に二人並んで座った。





「どうしたの?こんなところに、一人で。」




玲蘭は答えられずにいた。




「伊織と何かあった、とか?」




「今は、一緒にいるべきじゃないと思って。」




「やっぱりね。さっき、スタジオで楓が喧嘩売ったのよ。だから、むしゃくしゃしてるだろうな、って。思ってた。当たられたの?」




「.......。」




「ひょっとして、求められたんだ?」




玲蘭はさりなからのど直球な質問に俯いていいのか、迷いながらも俯く。




「雨宮さんは、どう思ってるの?伊織のこと。」




玲蘭はさりなの質問に答えられない。




「いいよ。正直に話してよ。」




「ごめんなさい。ずっと、好きだったの。」




「そっか。私さ、最初は雨宮さんのこと、は?何この女、伊織に手ェ出しやがってって思ったの。



だけど、違うなって。



私たち、付き合ってるとは言えなかったから。

雨宮さんに怒りを向けるのは違うって思った。」




玲蘭は顔をあげてさりなを見た。



「伊織、荒れちゃってからは誰も手をつけられなかったけど、あなたを見つめる目線だけは優しかった。


そのことに、なんとなく、気づいていたの。

私。


でも、伊織はそんなこと言わなかったから、名札だけの彼女の地位にすがっていたのよ。今まで。」




さりなはため息をついて、スムージーを一口飲む。




「逆にね、モヤモヤしてた部分を今は、ハッキリさせたいなって思ってるの。」




「ハッキリ?」




「うん。私、一度ちゃんと別れて、バンド頑張ろうと思って。



そしていつか、ちゃんとあなたから伊織を奪い返したいと思ってるの。



今日、さっき、あなたがここの席に座ってるのを見て、神様はきっと、あなたと話しなさいって、言ってるんだろうなって思ったわ。」




玲蘭はぐちゃぐちゃな自分の気持ちをまだまとめきれなかった。





「あなたは?どうしたいとか、あるの?」




「私、私は.......。



伊織と、これ以上のことはしてはいけないと思うんだけど、気持ちだけが消えてくれなくて。



だけど、さっき、そういうことになりかけた時、やっぱりダメだと思ったの。

だから、家を出てきたの。



だから、伊織とは兄と妹ととして、



ちゃんと関係を築きたい。」





「それを聞いて安心したよ。



ていうかさ、私としては超ラッキーなんだよね!


超強力なライバルが彼女になれなくなったっていう事実が!



あなたには悪いけど。



もし、兄と妹じゃなかったら、絶対あなたには敵わないもん!」




「そんなことないよ。」



「いや、敵わない。だからこそ、私、前向きにこのチャンスをものにするわ。」




さりなの前向きすぎるテンションに、玲蘭は苦笑いした。




「ねぇ、雨宮さん、良かったら、友達に、なろうよ。」




「え?」




「なんかさ、私たち、仲良くなれそうな気がしない?」






玲蘭は頷いた。

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