第56話

ずっと好きだった








一年生のある土曜日、玲蘭は生徒会の用事で、休みだけど学校へ出かけた。




体育館では、バスケのドリブル音が響いていた。




他校の見ない顔の生徒もチラホラいるので練習試合と予測した。




チラッと体育館に寄ってみると、伊織が試合に出ていた。




伊織の手に吸い付くように吸い込まれるボール。




走るたびに揺れる伊織の髪。





玲蘭には汗すらキラキラして見えた。





放ったボールは生きているかのようにネットを潜る。





歓声が沸き起こり、玲蘭も思わず拍手した。





笛が鳴り、試合終了、玲蘭は、立ち去ろうとした。





『雨宮!』





伊織は走って体育館から出てきた。





『見てたの?』





『うん、今日、生徒会で集まりがあって.....。』





『どうだった?』





『素敵だった!すごいね、朝比奈くん。』






『雨宮が見てくれて、嬉しかったよ。拍手ありがとう。』





玲蘭は自分が見ていたことに気づかれていて、恥ずかしくなる。





『がんばってね。』




『おぅ!雨宮も。休みなのに、大変だな、生徒会。』




『ううん。全然。じゃあ、そろそろ。またね。』




『おう、またな。雨宮。』





伊織の笑顔を見て、素直に愛おしいと思った。





でもこんな気持ちは初めてだから





人を好きになったのは初めてだったから





この先どうしたらいいか、はわからなかった。

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