第53話
「え?楓、今なんて言ったの?」
「こいつの親父と雨宮の母親、再婚したんだ。
だから、こいつと雨宮は兄と妹。だからもう、恋人にはなれないんだよ。」
「え!」
「マジかよ......。」
さりなと洋一は衝撃の事実にひるんでしまう。
「それなのにコイツは。一緒に暮らし始めて距離が縮まったのをいいことに、雨宮と接近して、キスしたりして、さりなを蔑ろにしやがって。」
「そうだよ。あの子が近くにきたら、こんな生活、馬鹿みたいに、思えてきたんだ。
好きでもない女とバンドのために付き合ったりさ。」
さりなは好きでもない女という言葉が氷のように心に突き刺さる。
次の拍子にさりなの目に涙が溢れてきた。
「伊織、最低だな。その言い方はないだろ。」
洋一もとうとう冷たい一言を浴びさせる。
「なんとでも言えよ!俺はたしかにさりなと音楽をやりたいと思ったから、交換条件を飲んだだけ。
だけど、本当はずっと玲蘭のことが好きだった!!
なんで俺ばかり責められなきゃならないんだよ。
もう、いいよ。バンドなんか!」
伊織はベースを持ってスタジオを飛び出した。
しばらくシン...とした3人だったが、さりなはハッとして急に楓に対して怒りを露わにする。
「楓のバカ!私、今日、伊織に彼女じゃなくてもいいから、そばにいさせて、って言うつもりだったのに!!!
なんで喧嘩売っちゃうのよ!!」
「さりなはそんなんでいいわけ?」
「最初は...そりゃー、伊織と付き合いたいがためにボーカルやってたけど、伊織が、あんな風になって、もう、伊織の隣で歌えないかも、って思ったら、きゅーんってこころが、寂しくなったの。
私みんなで音楽を作っていくことがいつのまにか、好きになってたみたい。
だから、伊織が弾いてくれるなら、彼女としてじゃなくても、いいかな、って今は思ってるの。
もちろん、伊織のことは諦めないけど。」
「俺は嫌だね。あんな女に鬱つを抜かしてる伊織となんかやりたくない!目を覚ましてやりたいんだよ!」
「でも、伊織と会長は私が付き合って欲しいって言う前から惹かれあってたと思う!
だから、無闇に、邪魔するのも違うし、会長も、きっと悩んでるんじゃないかな。
伊織......たしかに冷静じゃないし.....。
どういったらいいか難しいんだけど、自分たちで折り合いつけるしかないと思うの、私は。」
さりなの言葉を聞いて、楓は下を向いた。
「とりあえず、俺ら、冷静になろうよ。
伊織だって、一年のあの事件の後からいろいろ悩んできたんだ。
俺だってバンドでもやって、気を紛らせたらいいと思って誘ったんだ。
伊織だって、俺らと音楽やることで救われてた部分あるはずなんだよ。だから、再び、伊織がバンドやりたいって思えるように、歩み寄ろうぜ?」
「ねぇ!私、詩を書く!だから、楓、曲作ってよ!!デモを作って、伊織に語りかけたいの!協力して!楓!」
さりながバンドに関してなにか提案してきたのは初めてのことだった。
洋一は、そんなさりなを見て、少し口角があがる。
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