第44話
その夜玲蘭は、ベランダで考え事をしていた。
いろいろなことが起きすぎて、感情が追いつかない。
今まで、母のために、ずっといい子を演じてきた。
お母さんのために周囲からも良く言われておかないといけないと思い、
小学校でもボランティア部をしたり、児童会でも会長をやったりしていた。
勉強もしっかりやって、塾なども行っている子はいたが、できる限り自分でやり、クラスで常に1番の成績を収めていた。
学校の先生からお母さんに心配をかけるようなことを言わせないくらい、完璧な人間を目指してきた。
交友関係もできるだけクリーンに。
いじめもしない、されない。
トラブルに巻き込まれないように、友達とは広く浅く付き合ってきた。
そんなだから、小学校で仲良かった子達は他のクラスになったり、そもそも学区が違ってしまったりした中学一年のときは少し初めは寂しい思いをした。
そんなとき、クラスで初めて話しかけてきたのがさくらだった。
『雨宮さんだよね?私、中山さくら。よろしくね。』
さくらのおかげで、よもぎやもみじたちと
仲良くなれたのもあり、さくらには感謝していたし、信頼していたのに、今日、あんな豹変したことは玲蘭にとってショックだった。
確かにさくらたちは伊織たちを嫌っていた。
だからといって、噂になったくらいでこんな風に言われてしまうとは思わなかった。
友達だと思っていたのに。
玲蘭は悲しくて涙が出た。
「玲蘭。」
そのとき、隣のベランダに伊織が出てきた。
「伊織。」
「さっきは...ごめん。」
「ううん。」
「どうしたの。こんな夜に外出たりして。」
「いろいろなことが起きすぎて、頭が整理つかないの。」
「俺のせい?」
「そうじゃないの。さくらたちからも、距離を置かれたのがショックで。」
「中山か。確かにあいつら、薄情だよな。」
「でも、その程度の友情だったんだなって、思っていたところなの。私、友達は広く浅く付き合ってきたから、仕方ないのかな、って。」
「なんで広く浅く付き合ってきたの?」
「トラブルになりたくなかったの。喧嘩したり、それが原因でいじめに発展したりして、お母さんに迷惑かけたくなかったの。」
「お母さん...?」
「お母さんが離婚したとき、私は父方に引き取られる予定だったけど、それが嫌で、お母さんにワガママ言ったの。一緒に行きたいって。
だから、お母さんには、迷惑かけたくなかった。引き取って良かったって、思って欲しくて成績とか生徒会長とかいろいろ頑張ってきたのよ。もちろん友達とも問題起こさない。」
「俺のせいで、全部台無しになっちゃったな。ごめん。」
「伊織の所為じゃない。」
「でも、もう、いい子ちゃんにならなくても、いいんじゃないかな。親父とも結婚して、幸せそうじゃん?母さん。」
伊織は2人が結婚してから、母のことを真由美さんと呼ばずに母さんと呼んでいる。
そこに優しさを感じる。
「でも......。」
「志穂ちゃんも、玲蘭のこと、心配していたよ。いい子すぎて、なんか我慢してそうだって。」
「志穂が?」
「うん。人間自分の幸せを考えて生きることも多少は必要なんだと思う。」
「私の幸せ....?」
伊織は頷いた。
「肩の力抜いていこうぜ。」
玲蘭は、少し、さくらたちに距離を置かれたこと、それはそれでいいんだ、と思えた。
部屋に帰ると、奈々と似奈からメッセージが来ていて、それを見て玲蘭は微笑んだ。
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