第38話

伊織は教室に帰りながら、楓に話しかけた。




「おい。楓。てめぇ、雨宮を傷つけるようなことしてんじゃねぇよ。」



「おまえ、あの子に惚れてんだな。やっぱ。」



「おまえには関係ない。黙れ。雨宮に近づくんじゃねー。」



「さりなのこと、ちゃんと清算せずに雨宮とイチャイチャしてるおまえには言われたくないね。」



「さりなとは別れるよ。」



「マジで言ってんのか?」



「あぁ、今まで、バンドがやりたくて、さりなの歌が好きで、歌のためだけに嫌々付き合ってきたけど、そんなん、さりなのためにもなんねーじゃん。


その方がよっぽどさりなのためだ。」




「そんでさりながバンド辞めても、それでいいわけか。」




「仕方ねーよ。それは。」




「ふざけんな!俺は4人でバンドやってる時間も楽しかったのになんだよ。


てめーの私利私欲のためにさりなもバンド捨てて......。


あー...もー......。



まじで勝手なんだな、伊織って。

昔からそうだよ!おまえ!



だから、先輩にもハメられて、林田たちにも裏切られたんだよ!」




楓は勢いで思ってもないことを言った。

伊織はバスケ部のときの触れられたくない心の傷を抉られて、言葉を失う。




「伊織、あの、その。」



「おまえ、ずっとあの時のこと、そんなふうに思ってたんだな。」



「伊織、今のは弾みで。」



「気分悪い。帰るわ。」




伊織はそう言うと走って行く。

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