第3話

一緒に行ってきますをしたら、踏切を越えて、地元の駅へ向かった。急行列車に乗り、川を越えたら、名古屋の駅に着いた。




地元の駅の何倍も人がいて、勢いで気持ちが押し潰されそうだった。



そんな緊張感もあり、



途中、一華は立ち止まってしまう。





「梓ちゃん、私、やっぱりなんだか怖くなってきちゃった。」




「何言ってるのよ!あの中学だった頃のあんたを知ってる奴は1人もいないのよ。堂々としてればいいのよ。



今日から新しい自分になったんだから!ほら、鏡見なさいよ!」




一華は梓が指した鏡に映る自分の姿を見て、驚いた。



栗色の髪の毛に慣れないメイク、さらに梓がセットしてくれた可愛い髪の毛に、自分ではないような気分になる。





「私じゃないみたい。しかも、今日からの学校では、中学のことなんか、誰もしらない...。」




「そうだよ。春は誰もが新しい一歩を踏み出す季節だよ。

 過去のことなんか忘れて、楽しもうよ。新しい日々をさ。私と一緒にね!」




梓に言われて、一華は新しい自分に出会えた気がした。

嫌な過去なんて捨ててしまえばいいんだ!

そう思ったらすっと不安も消えていった。





「あ、一華。」





梓は思い出したかのように急に立ち止まった。





「今日から”梓ちゃん”禁止よ。」


「え?なんで!!」


「もう何年一緒にいるのよ。梓と呼び捨てにしてよ。」


「...梓?なんか、呼びにくいよ。」


「そう、それでいいの。そのうち慣れるわよ。」




総合駅からは地下鉄に乗り換えた。



「梓ぁ、この環状線いつも迷うんだよ。右なの?左なの?」



「行き先よりも道で覚えた方がいいわ。左の階段を降りればいいのよ。」




地下鉄にしばらく乗り、さらに駅からはバス。



普通ならうんざりするくらいの距離。でも、梓の狙い通り、同じ中学からは一人も受験していない。



さらには、担任にも口止めをし、一華と梓がこの高校を受験することなど、誰も知らないようにした。



一華に対して、あいつ中卒選んだらしいよ、と馬鹿にするようないじめも発生したが、言わせておけと、梓はスルーさせたのだ。



バスを降りると、散りかけの桜並木が、2人を迎えた。




「綺麗ね。私、桜好き。」



「私も。」



見惚れていたが、梓はハッとして、一華の肩を叩く。



「えっと、クラスは...あ、あそこね。貼り出してあるわ。」


「梓ちゃ、いや梓とクラス違ったらどうしよう。」



「残念だけど、その可能性が高いんだから、しっかりしなさいよね。友達とのおしゃべりも練習したでしょ?もっとも、あんたは今対人恐怖症になりかけてるだけで、元々は普通に友達作れていたんだから、大丈夫よ。」



「う、うん...。」



「でも、なんかあったら、いつでも言ってよね!そのために私は一緒に学校行こうって言ったんだからさ」





梓の念押しに一華は笑顔で頷く。




新しい私になろう。




ここまで連れてきてくれた、梓のためにも。




一華はそう心に誓う。

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