第5話 雨の中の安心感

 七菜ちゃんと話す頻度が明らかに減り、わたし自身も一人でいる時間が増えた。

 お昼はいつも七菜ちゃん、真希ちゃんたちと食べていたのに対し、今はわたし一人で食べている。七菜ちゃんは真希ちゃんたちと食べているようだけど、わたしが誘われることはなかった。


 あの時、わたしは何て言えばよかった?

 迷惑じゃないよって伝えればよかった?


 正解なんてあるわけない。


 でも、もしあの時そうやって行動できていたら、何か変わった?


 実際、勉強する時間は増えた。「これだけやったから大丈夫」って思えるくらいまで勉強する時間が増えた。


 それは良いことなのかもしれない。反対に、悪いことでもある。


 一緒に七菜ちゃんといる時間が無くなって。今日は「おはよう」も言わなかった。帰るとき「またね」も言わなかった。


 席は近いはずなのに、話すときなんかなかった。


 どんどん、結んだはずのきずなが解けてきている。


「あ、学級長さん、掃除当番変わってくれる⁉ 今日ちょっと予定あって……!」


 雨降る放課後。


 何度目かの掃除当番の代わりを頼まれた。

 名簿順で回っているはずなんだけど、やっぱり予定と被っちゃう人もいるらしく、そういう時は大体わたしがやっている。


 ホントは家で借りた本を読みたかったな、と思いながらも笑みを浮かべて「うん」と答える。


「予定と被っちゃうのはしょうがないよね。いいよ、やっておくね」

「ホント⁉ ありがとう! やっぱり学級長さんは優しいね!」

「あはは、そうでもないよ。学級長だし、こういうのをやるのは当然だよ」


 その子はホッと安心したような顔になって教室を出ていった。

 わたしは手に持っていたカバンを置き、代わりにゴミ箱をもって廊下に出た。

 誰もいない静かな廊下を歩いて渡り廊下に出ると、横殴りの雨がわたしに当たる。


「寒っ……」


 びゅうびゅうと雨が混ざった風がわたしに吹きつけた。

 雨が冷たくて、キン、と体が一気に冷えた。


 渡り廊下から少し歩いて、外にあるゴミ捨て場に着く。

 さっきまではかすかに当たる程度だった雨が、しっかりと全身に吹きつけた。


 雨が当たったところからどんどん体温を奪われて、早く早くと自分を急かす。

 早く終わらせないと……!


 持ってきたゴミ箱を持ち上げ、取り付けられた袋に入れた。中のゴミは雨で濡れていて、袋の下にも少し雨が溜まっている。


 ゴミ箱のゴミをすべて入れると、袋はいっぱいになってしまった。


 どうしよう……袋取り換えた方がいいかな。

 でも変に取り換えちゃって怒られるのも嫌だな……。


 そのとき、びゅううっと強い風が吹いて、わたしは思わずしゃがみ込む。

 空から落ちてくる雨が、わたしの制服に、髪に、腕に、頬に、当たる。

 ガクガクと足が震えて、その場から動けなくなった。


「うー……」


 教室に戻ればここよりは寒くない。早く教室に行こう、と思うけれど体が冷え切って動かない。

 そのとき。



 ――ひとつの影が視界の隅に入った。



 それと同時に、さっきまでわたしの体に当たっていた雨粒が途切れる。


 時間が止まった気がした。

 音が何も聞こえなくなったように感じる。


「どうしたの」


 その声をどこか聞いたことがある気がして、冷え切った体が温まっていくような……そんな安心感を覚えた。


 ゆっくりと顔をあげると、そこには見知った彼がいた。


「す、がのさ……ん?」

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