第7話 変わらない現状

 特に何もないまま、確実に定期テストに近づいてきている、今日。

 最近は雨が続いていたけど、今日は見事快晴だ。

 朝から燦燦と輝く太陽が、とても久しぶりに感じた。アスファルトに当たって反射する太陽がわたしの顔を照らし、思わず目を細める。


 次第に靴の音が増えてきて、同じ制服を着た人たちにまぎれて学校に向かう。

 学校に着くと、何十人もの人がいて、昇降口で話したり、誰かを待っている姿が多くあった。


 その中に、ある人の姿を見つけて、わたしの足が止まった。

 わたしに視線が集まっているのが分かる。

 そりゃあそうだ、にぎわう正門エントランス広場の真ん中で立ちつくしているのだから。


 その人はわたしに気づいた様子はない。

 そばにいる友達と楽しそうにしゃべっている――七菜ちゃんだ。


 わたしはパッと目をそらして、足を前に前にと動かす。


 前までは、あの輪の中にわたしもいたはずなのに。

 七菜ちゃんの近くで、他愛もない話で盛り上がっていたはずなのに。


 ――七菜ちゃんのあの瞳には、もうわたしは映っていない。


 そう思うと、ズキズキと心が痛んで。

 

 こんなこと、考えなきゃよかった。

 こんなことになるのなら。



 ――最初からわたしに期待なんてさせないでよ。



 ……七菜ちゃんのこと、わたしは本当に友達だと思っていたよ。


 楽しげに笑う七菜ちゃんたちを視界に入れないように、わたしは早足で前を通り過ぎた。


 涙が浮かんでいることも、気づかないふりをして。


 ―――――


「沙織さん? 聞いているんですか?」

「っ、はいっ!」


 林先生の声でハッと現実に戻ってきて、わたしはピン、と背筋を伸ばす。


 みんなが帰ったころ、わたしは林先生と一対一で向かい合って座っていた。

 林先生が話している中、思わずウトウトしてしまったのだ。学級長がこんなんでどうする、と叱られるかと思ったけど、どうやら話したいのは違うことらしい。


「あなた、最近ずっと掃除当番の代わりをやってくれているんだって?」


 それを聞いて、珍しく褒めてくれるのか、とわたしは少しばかり期待する。

 でも、次に続く言葉は、わたしが求めていたものじゃなかった。


「ダメよ、しっかり当番制になっているんだから当番の人がやらないと。『私は代わってもらえなかった』『私は頼んでも代わってくれない』『どうしてあの子だけ?』と問題になったら困るもの」


 わたしは困っていたから手伝ったというのに、そんなことまで怒られなくちゃいけないの……?


「しっかり、当番の子がやってもらうようにするのも学級長の仕事よ。しっかりクラス全体に周知させておきなさい」

「……はい」


 小さく返事をしてから、次は授業の取り組み方、その次は提出物の期限を守れていない人が多いことなど、全部で三十分くらい話された。


 それは知ってる。ずっと前から知っていたことだ。

 ずっと前から知っていたのに、今と変わらない現状。


 何とかいい方向に持って行かなければ。


 わたしは話し続ける林先生を前に、ひとり、心の中で固く決意した。


 それと同時に……また、一つ大きなものを背負ってしまった気がした。

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