第2話 口約束で結ぶ糸
一限目、数学の授業。
「沙織、教えて~っ」
わたしの机に筆箱とノートを持ってきたその子は……
そう、七菜ちゃんこそがわたしの唯一の友達。
七菜ちゃん側の友達とも仲良くさせてもらってるけど、やっぱり間にいつも七菜ちゃんがいる。七菜ちゃんがわたしたちを繋いでくれている気がした。
「いいよ。どこ分からないの?」
ここ! とわたしの教科書の右下を指差す七菜ちゃん。
そこは基礎を活かした発展問題のところだ。七菜ちゃんは基礎はしっかりとできているから、練習さえすればあっという間に身につくと思う。
「そこはひとつ前の応用みたいになってるから――……」
さささっと公式を書いて、それを使って七菜ちゃんに説明する。
わたしの説明で理解できたのかはわからないけど、答えは何とか求めることができた。
解けたー! と言って喜ぶ七菜ちゃんを見ると、わたしも教えてよかった、という気持ちになる。教えるのは嫌いじゃないし、頼りにされているのは嬉しいことだ。
「ありがと! やっぱり沙織、天才だ!」
「あははっ。そんなんじゃないよ」
先生が「席に着いてー」と呼びかける声がして、七菜ちゃんは自分の席に戻っていった。
答え合わせをすると全部あっていて、とりあえずホッとする。せっかく七菜ちゃんが頼ってくれたのに、間違えていたら申し訳なさすぎる。
そう思いながら、数学の授業は終わった。
―――――
放課後になる。今日は流れるように授業が進んでいく。
でも時計の秒針は遅れることなく、早まることなく、規則正しいリズムを刻んで進んでいる。
「あ、沙織まだいた! 今日時間ある~?」
「七菜ちゃん。時間あるよ。どうした?」
「それがさー」
パッと見せてくれたのは、今月から始まる、近くのカフェ「ハーモニー」のフェスのチラシ。ハーモニーは、特に女子中高生に人気の温かい雰囲気のカフェ。
気になるチラシの内容は……。
「ほらほら、六月と言えばブルーベリーっ! ってことでブルーベリーのお菓子がたくさん並ぶんだって! 一緒に食べに行かない? あ、真希もいるけど」
「え、いいの? テ、テスト前だけど……もしわたしもいいなら行こうかな」
「いいから誘ってるんじゃん! じゃあ決定~っ! 一回自分の家に帰って、現地集合ね!」
とは言っても、七菜ちゃんと帰る方向が一緒なので、途中までブルーベリーフェスのことについて話す。
あ、真希ちゃんというのは
「沙織、何かおいしそうなの見つけた? あたし、このタルト食べてみたいんだよねー」
「うーん、ワッフル食べてみたいなあ……」
二人で顔を寄せながら、チラシをのぞき込む。
うう、おいしそう……! 六月から七月中旬までの期間限定かあ……。
ここのカフェは何度か行ったことがあるけど、どれもおいしい。
普段はレモンティーしか飲まないんだけど、ブルーベリーソーダも気になるっ。
「わ、このスコーンもおいしそうじゃない? たくさんブルーベリー入ってるーっ!」
「おいしそう……」
七菜ちゃんと分かれてから、すぐにカバンを置いて「ハーモニー」へ。
もうすでに七菜ちゃんは来ていて、わたしが合流した数分後に真希ちゃんが来た。
「ごめん、遅くなったっ」
「気にしないで、わたしも今来たところだから」
すかさずフォローを入れると、真希ちゃんは安心したようなホッとした表情を浮かべた。ずっとお店の前にいるのもあれなので、さっそく店内に入る。
チリン、というベルの音と一緒に、一気に世界が変わる。
真っ白な壁に、真っ白な床。屋根が高くて解放感がある。
ふわふわした感じのおしゃれな雰囲気で、店内にいるだけでなんだかそわそわと落ち着かない。
こんなにおしゃれなところにわたしなんかがいてもいいのだろうか、と空いている席を見つける二人に隠れるようにしてついていく。
ちょうどいい場所があったのでそこに座ると、メニュー表を机に広げる。
わたしと七菜ちゃんは事前にチラシを見ていたから何となくわかるけど、真希ちゃんは急だったから、どんなメニューがあるのかをほとんど知らない。
結局、わたしはブルーベリーソーダとワッフル、七菜ちゃんはフルーツスムージーにタルト、真希ちゃんはアイスティーとマフィンを注文。
ソーダは久しぶりに飲んだけど、甘酸っぱい感じがとてもおいしかった。ワッフルにはソースとブルーベリーがたくさん乗っていて、ものすごく豪華。食べるのがもったいなくて、時間をかけながら食べた。
食べながら雑談をしつつ、食べ終わったところで会計を済ませる。
それぞれの分はそれぞれが払う、というのがわたしたちの中で定着していたので、しっかりと自分のお財布から払う。たまにはこういうのもいいな。
「めーっちゃおいしかったー! また来たいねー」
「うん、またみんなで来ようよ。テストの打ち上げとか」
「私も友達連れてまた来ようかな」
みんな笑顔で話す、この時間がわたしは一番大好きだ。
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