第6話犯人探し

「執事と仲が良かったのは誰ですか?。」

「神主の家族と仲が良かったわ。」

「島に神社があるんですか?。」

「ええ、この館の裏と神社の境内が繋がっているわ。以前はこの館の当主が神主を雇って神事をやらせていたらしいわ。今はそんな事無いけどね。」

「じゃあ明日神主に会ってみよう。」

「あの、神主夫婦に二十才位の娘がいませんか?。」

俺はおずおずとサツキと食堂のおばさんの会話に口をはさんだ。

「実の娘じゃなくて、捨て子だったのを養子にした娘がいるよ。知り合いかい?。」

「昨日の朝、裏の桜の林で白装束を着てました。」

「白装束?。ああ、神事の練習をしてたんだろう。」

「どうした?。進藤。顔が赤いぞ。」

「そんな事無い。」

「惚れたな?。バレバレだ。」

俺は真っ赤になって言葉も出なかった。

「じゃあ、明日、彼女と合わせてやる。今日はもう寝るぞ。」


次の朝、

「どうした?。進藤。寝れなかったのか?。目が赤いぞ。」

「彼女に会えると思うと一睡も出来なかった。」

「正直でウブだな。朝食を食べたら行こう。」

俺達は館の裏庭から桜林に出た。

「もう散り始めてる。だが、綺麗だ。」

サツキが呟いた。

しばらく進むと神社に出て、老女が境内を掃除していた。

「おはようございます。」

「おや、よそ者の大学生さんか。」

「執事さんについてご存知の事を伺いたいんですが。出来れば家族皆さん一緒に。」

老女は境内にある自宅に連れて行ってくれた。

「彼女は島の人間ではなく、本土からお館様が招いたんだ。天涯孤独だと言っていた。お館様との噂はあったよ。夜、自室で毎晩晩酌をしているのも皆知っていたよ。島で隠し事は出来ないんだ。」

「執事は本土のお館様の従兄弟と知り合いなんですか?。」

「無線では話した事があるらしいが会った事はないと思う。」

「島にお館様の従兄弟の知り合いは居ますか?。」

「居ないだろう。」

「娘さんに伺います。えーと、お名前は?。」

「伊井桜です。」

「桜さん、一昨日の朝、桜林にいた時に誰か見ませんでしたか?。」

「どうして一昨日の朝、桜林にいたと知っているんですか?。でも、誰も見ませんでした。」

「ここにいる進藤が桜さんを見かけたんです。」

「すみません。桜さん、島を案内してもらえませか?。」

「ええ、かまいませんわ。」

三人は一度、館に戻った。

運転手兼庭師の海野に頼んで軽トラを出してもらい、俺達は荷台に乗り込んだ。

彼には先ず海岸線を走ってから 島の道をなるべく全部走ってくれと言っておいた。

「ここが島の港です。ここ以外で海から上がれる場所はありません。」

桜が説明をはじめた。

「ここは廃校。小中学校を兼ねていました。私が最後の生徒で、私の卒業と同時に廃校になりました。」

「ここが島で唯一の雑貨屋です。」

「ここが公民館。隣に無線が置いてあるプレハブが有ります。」

「ちょっと見たいな、君たちはここで待っていて。犯人の足跡とか消すとまずいからね。」

俺は桜さんと二人で荷物に残された。

「桜さん、神社の仕事をしてるんですか?。」

「ええ、来週本土からくるお客さんの前で神事での舞を舞うように言われています。」

「桜さんの名前ステキですね。」

「桜の花が咲いている時に神社に捨てられていたんです。私が身につけていた本土のお守りにも桜の花びらが挟んであったらしくて。それで、桜。でも、私もこの名前好きです。」

サツキが戻ってきた。

「どうだった。」

「外の南京錠も無線機もバールの様な物で壊してあった。」

「そうか。」

「海野さん、また出発して下さい。」

軽トラは残りの道を走っていったが、後は民間と畑と廃屋くらいしか見るものは無かった。

神社に戻ると、

「桜さん、進藤に神社を案内して下さい。僕は神主さんに聞きたいことがあります。」

と、サツキは神主の家に入って行った。

「神主さん、事件に係わる事です。正直にお応え下さい。桜さんはお館様と執事の滝口さんの子供ですね。」

「そうです。」

「何故隠す必要があったんですか?。二人共独身で結婚できた筈なのに。」

「館を継ぐものは島の者と結婚する決まりだった。滝口と結婚すればお館様は館の当主では無くなる。」

「島を出て家族で暮らせば良かったでしょ。」

「滝口の父親は酒を飲んで人を殺し刑務所にいた。本土で滝口は職を見つけられ無かった。お館様も経済力がない。二人は島に住む事を選んだんだ。」




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