第2話第一の密室死体
漁船が港につくと白髪の老人待っていて、俺達を軽トラに乗せて古い洋館に連れてきてくれた。
その人は館で運転手兼庭師をしている海野さんといった。
「俺、初めて荷台に乗ったよ。」
「そうか?。東南アジアだと普通だぞ。」
「道路交通法で禁止されてるよな。」
「日本ではな。」
「ここだって日本だぞ。」
「昔のな。ここは携帯も繋がらない。インターネットもない。固定電話も無くて、無線で本土と連絡するらしい。」
「昔のって、別にタイムスリップしたわけじゃないだろう?。」
洋館の勝手口から中に入り、執事に挨拶した。
執事は四十代後半の女性だった。
「進藤さんとサツキさんですね。私が執事の滝口です。三週間よろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします。女性の執事さんと初めて会いました。」
「まあ、数が少ないかもね。船はどうでした?。揺れませんでした?。」
「揺れませんでした。でも、船長の無口には驚きました。」
「必要なこと以外話さないでしょう。でも、島の出身で夜でも荷物を館に届けてくれるんです。あなた達、疲れていなければ、大広間の家具の入れ替えを始めてくれる。」
何時間も働き、ヘトヘトになった頃、
「夕食よ。使用人用の食堂に来て。」
食事は美味かった。
海と山の自然恵みが一杯詰まった新鮮な食事は久しぶりだった。
「この使用人部屋を二人で使って良いよ。風呂場は隣。明日も朝早くから仕事だから。ゆっくり休んで。」
重い荷物を何時間も移動させたせいで風呂をでてすぐに俺達は眠ってしまった。
俺だけが何故か、朝早く目が覚めて、暇つぶしに散歩をしていると館の裏側に出た。
あたり一面の満開の桜。
桜の花びらが風に舞って踊っている。
こういうのを桜吹雪と言うのだろう。
誰もいない、俺だけの日本的な風景に、一周ぐるりと回転してスマホでビデオを撮った。
いや、誰かいる?。
数メートル先の幹の向こうに、長い黒髪の女性が両手を万歳しているように広げているのが見えた。
そうか、彼女は舞を舞っているんだ。
向こうはこちらに気づいてはいないらしく、ウットリと桜吹雪を身体中に浴びながら舞続けている。
桜の精?。
まさか、普通の人間だ。
だがその服装は白装束に見える。
幽霊?。
朝早いとは言っても、太陽はもう昇っている。
俺はスマホで彼女を撮り続けた。
胸がドキドキして息が苦しい、顔も熱い。
ああ、初恋だ。
たぶん。
大学二年の初春、やっと、俺は恋を知った。
使用人部屋に戻ってみると、 既に朝食の時間になっていた。
俺達は朝食を平らげたが、仕事を指示する執事が見当たらない。
「執事さんがいなくて何をしたら良いか解らないんですけど?。」
「体調でも悪いのかしら?。部屋に行って見てきてくれる?。」
食堂のおばさんに言われて、俺達は執事の部屋をノックしたが、返事がない。
「外に出て窓から様子を覗いてみよう。」
窓はまだカーテンが閉めてあったが、カーテンの隙間から床に誰か倒れているのが見えた。
「大変だ。中に入るぞ。」
窓の鍵が掛かっていた為、やむなく窓を割って部屋に入った。
騒ぎを聞きつけ、使用人達が集まった。
執事は自室の床に倒れて死んでいた。
ドアにも窓にも鍵がかかっていた。
椅子に座って、何かをツマミに一杯やっていた時に倒れたらしかった。
「外傷はないが、自殺か他殺か事故か病死か?。」
サツキがブツブツ言い始めた。
「とにかく、お館様にお知らせして、無線で本土の警察にも連絡しないと。」
食堂のおばさんは、下男の霜島に無線を頼み、下女の清水には、お館様にお知らせするように言いつけた。
しばらくすると、悲鳴が聞こえ、下女の清水がヨロヨロと現れた。
「ノックをしてもお返事がないので、マスターキーでドアを開けると、お館様が、お館様が…。」
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