壊れたリモコン

実家の仏間にあるクーラーは、かなり古い機種なのに未だ健在だ。

だけどリモコンが壊れてるから不便でならない。


仕方なく背伸びをし、本体のリセットボタンを長押しして稼働させている現状だ。


温度調節はリモコンじゃないと出来ない。


私としては26度の働きで満足なのに、クーラーは19度設定ほどに頑張りすぎている。


たちまち部屋は極寒の空間となる。


夜中に寒さで目覚め、わざわざ本体のところまで足を運ばねばならない。

背伸びをして本体のリセットボタンを長押しでOFFにさせてから眠りにつく。

しばらくして仏間が暑くなり目覚めてしまう。

仕方なく同じ動作で本体をONにさせるのだ。


そんな面倒な動作を何年越しで続けてきたことか。


今年こそは壊れたリモコンを何とかしたい。


去年の今頃、ギャンブル的に買った互換品は、うんともすんとも反応せずに泣き寝入りをした。

同じ轍は踏みたくない。

それそのものを中古品で購入しようと検索するが、5000円以上の値が張るものばかり。


年に数回付けるだけのクーラーにそんな大金を払う勇気は無い。

もうこれは自分で修理するより方法は無いのかもしれない……。


精密ドライバーを引っ張り出しリモコンを分解した。けれど中身を見たとて意味が分からない。私は素人なのだ。


私の実力では、ただホコリを綺麗に拭き取ることしか出来なかった。

あとは神頼みだ。


『どうか動いて下さい。設定温度を26度にしたいんです。一瞬動けばいいんです。何卒よろしくお願い致します』


そう魂を込めて祈った。


二本のネジをしっかりと締め、ボディーをピカピカに磨き、電池を入れて試してみる。


……うんともすんとも言わなかった。


極寒の仏間。もしくは灼熱の仏間。

ここだけ夏と冬を行ったり来たり。


私は毎年同じことを繰り返している。

だけどもういい。もういいよ。

そろそろあきらめよう。

本体ボタンでON/OFFができるのだから、ありがたく思おう。

27年前のクーラーが未だに動くだなんて、なんて奇跡的なことか。


私は背伸びをして、リセットボタンを長押しした。


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