おばけきゅうり

1リットルタッパーにきゅうりの漬物を仕込んでおいたのだけど、あっという間に空になった。

バリバリバリバリ……と、朝も昼も夜もきゅうりの漬物が止まらない。私は河童の霊に取り憑かれてしまったのかと思うほどにきゅうりの漬物にハマってしまったのだ。


ハマる原因は、きゅうりを沢山貰うから。

きゅうりは身体を冷やしてくれる夏野菜。今が旬。

畑をしている同僚が、「きゅうり採れすぎてたくさんあるから貰って欲しい~!」

と、毎回ドッサリと持ってきてくれるのだ。


「採るタイミング逃しちゃって、おばけきゅうりだけどごめんね~」と、同僚は言った。


私はこの時初めて、収穫が遅れて大きくなり過ぎたきゅうりの事を『おばけきゅうり』と呼ぶことを知った。


おばけきゅうりは、スーパーで売られているきゅうりの3倍以上の大きさだ。

つまり、おばけきゅうりを5本もらうとしたら、5×3= 15本分のノーマルきゅうりを頂くことになる。


実は数日前に貰ったおばけきゅうりが消費し切れず自宅の冷蔵庫に三本ほど眠っている。

つまりノーマルきゅうり9本分の在庫があるのだ。

毎食きゅうり多めのサラダを食べ続けているが、無くなりかけては補充される状況が続いている。いくらきゅうり好きの私でも、近頃困り始めていた。


「おばけきゅうりなんてまっぴらごめんだわ!」と言いたい所だが、あまりにも同僚が切実に貰って欲しいと訴えるものだから、有難く追加の5本を頂くことにした。


これに立ち向かうにはどうすれば良いかを考え、きゅうちゃん漬けで大量消費を狙った。しかしレシピを見て面倒くさそうだったので諦めた。

レシピが簡単じゃないとおばけきゅうりに立ち向かう気にもならない。私は1リットルタッパーに塩こんぶ漬けで攻めておいた。


すると翌朝から、不思議現象が始まった。

バリバリバリバリ……と、きゅうりが止まらなくなったのだ。


なぜだか、おばけきゅうりの塩こんぶ漬けには箸が止まらなくなる不思議な力が宿っている。


バリバリバリバリ……と、もうどれだけ食べたことか。やめられない止まらない。そしてお腹が痛くなる。なのにバリバリしてしまう。

これ、きゅうり依存? それとも河童が憑依した? まさか私、前世が河童だったりして!?


なんて妄想しながらバリバリバリバリ……。


おばけきゅうり、どれだけ束になって我が家へ来ようが一本足りとも無駄にはしないから。


再び私は塩こんぶ漬けを仕込んでおいた。


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