第七話 キャンプファイアー後に告白が成功する確率58%
キャンプファイアー、話には聞いた事もあるしどういう物かも知っているけど、実際にそれを自分が行うとなると少しだけ興奮するらしい。灯油を塗ったトーチをくべる。
「燃えろよ燃えろをみんなで歌います! 大きな声で歌いましょう!」
僕はこういう歌を歌うという行為が心の底から嫌いなんだ。でも、汐リーダーもちゃんと歌っているので班員の僕が歌わない事で迷惑をかけたくはない「祐希、歌詞カード忘れた」という和也に僕の歌詞カードを渡した。
「明日の夕方にはバスに乗って元の家に帰っていつもの日常が戻ってきます。ですが、同じ班の仲間と過ごした日々は一生の宝物になると思います」
あの大学生の鎧塚と汐リーダーが呼んでいたリーダー達のまとめ役の男は感極まったのか、顔を赤くして、目に涙を浮かべてそう僕らに語りかける。実際全然僕の心には響かない。
「彼は教育学部に所属しているらしく、将来は教師を目指しているらしいよ」
僕の心を読んだように汐リーダーはそう言った。
「あー、学校の先生向きっぽいですね」
「そうだね。彼の受け持つクラスはきっと素晴らしいだろうね」
僕は汐リーダーが僕の担任の先生だったらなって思ったけど、流石に恥ずかしくてそれは口には出せなかった。なのに、直の奴が「紅月リーダーが先生がいいな」と僕の言いたい事を言った。
「はははっ、直君、私は恐らく教師という職業にはあまり向かないタイプの人間だよ」
汐リーダーが先生に向かないなら、この世界の先生と名乗る連中の殆どが教師という職業が向いてないんじゃないかと僕は考えていると、和也が「紅月リーダー後で少し時間いいっすか?」と切り込んだ。
「おや? キャンプファイアーが終わるとあとは就寝するだけだが、うん。了解した。リーダーミーティングの前に少し時間を作るとしよう」
十中八九和也は汐リーダーに告白するつもりだ。確かにキャンプファイアーの後ならロマンチックで気持ちが昂っている男女に間違いが起こるかもしれない。先程中学生の女子が、顔の良い大学生のリーダーと二人っきりになるとか話していたし。
歌を歌い、焼きマシュマロを食べてリーダー達の出し物。流行りの曲に合わせてダンス。汐リーダーはトランペットを吹いていた。この日の為に隠れて練習をしていたと言うがお世辞にもダンスは上手いとは思えなかった。
だけど汐リーダーや演奏をしている他リーダー達は音楽に明るくない僕でもかなり上手だったんじゃないかと思った。
そしてキャンプファイアーの全行程が終わった。あとは班ごとにお風呂に入って最後のテント泊になる。そして僕の視線の先には汐リーダーと和也が人の少ないキャンプセンターの裏に向かって歩いていくのを僕は隠れてつけた。
「あの、紅月リーダーって彼氏っていないんですよね?」
最初に会った時に聞いた事を聞き返すなんて馬鹿のする事だ。
「うん、そうだね。残念ながら」
この口ぶりだと汐リーダーは彼氏が欲しいんだろうか?
「あの、それって俺じゃダメっすか? 年下ですけど」
汐リーダーは和也の言葉を聞いて少し考える。戸惑うわけでも「成程告白というやつか」と頷く。
「気持ちはとても嬉しいよ。私にも人並みに好意を持ってくれるとはね。しかしすまないね。応えることはできないんだ」
「やっぱ無理かー!」
僕はこのキャンプで初めて心の底から和也を尊敬した。僕ならあんな風に断られたら心がどうにかなってしまうかもしれない
いつもの調子で和也は笑って落ち込んだポーズ。こんな風に気持ちの切り替えができるんだ。和也は馬鹿な中学生ではないと認識を改めた。「今度、お茶とかいきましょうよ」と諦めていないそぶりを見せる。そんな和也に「機会があれば行こうか?」と汐リーダーは大人の返し、これ以上の進展はもうないだろうと和也も重々わからせられただろう。和也の告白は玉砕し、汐リーダーはリーダーミーティングに向かっていった。
僕は内心、安堵感で一杯だった。万が一、汐リーダーがオーケーでもしてしまったら僕はあと半日この班員と過ごす事はできなかったろう。「どうだった?」と戻ってきた和也に僕は知らないフリをして聞いた。
「紅月リーダーは彼氏とかそういうのは必要としてないってさ。そりゃそうだよな。なんでもできるもんな……あー、マジで好きだわ」
誰かの事を好きだと口に出して言える。それだけで僕はなんだか置いて行かれた気持ちになった
「和也君はすごいな」
僕の本当に正直な気持ちはそう言葉になった。
僕の言葉を聞いて、和也は年上らしく、気にしてないそぶりを見せてシシシと笑った。
「いやー、結構キテるぜ。普通に泣きそうだわ」
「ほんと、和也君はすごい」
直は僕らの会話をあまり理解していないのか、お風呂に行こうとせがみ、僕と和也はお風呂の準備をして直と一緒にキャンプセンターの浴場に向かった。「あー、明日でお別れかー」和也が唸る。あんなにいきたくなかったキャンプから、僕も帰りたくなくなっていた。
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