第六話 アマゴ掴みができない僕と“くねくね“の何かを掴んだ汐リーダー

 僕らが昼食を終えて、あまご掴み体験に向かう途中、火おこし体験時に熱中症で倒れた中学生女子がいると聞こえてきた。汐リーダーはその女子生徒の元に向かって帰ってこない。他の班の班長達が話しているのを聞こえた。汐リーダーは変わっているけど凄い頼りになると。熱中症で倒れた子供のケアまでしてくれている。とても女子高生には見えないと僕らは僕らのリーダーが褒められていて何だかとても誇らしい気持ちになった。


 そう、僕らの汐リーダーは優秀なのだ。

 

 小さな小川にやってくると、少し遅れて汐リーダーも戻ってきた。

 

「やぁやぁ、みんな待たせたねぇ」

 

 汐先輩は戻ってくるとスポーツウェアのような物に身を包んでいた。恐らく、僕が推測するにアマゴ掴みを自ら参加するつもりでいるんだろう。何故なら、ジャケットに七味や洋胡椒、各種調味料が収納されている。間違いなく捕まえたアマゴの調味料と見ていいだろう。自ら持参した調味料を使って塩以外の味も僕らに振る舞ってくれるに違いない。

 そんな気遣いが他のリーダーにできるだろうか? と思っていると、あの五月蝿い大学生の男のリーダーだー。

 

「紅月リーダー、少しいいかい?」

 

 汐リーダーはコイツに呼ばれて、「どうしたんだい? 鎧塚よろいづか総リーダー君」と足を止めて振り返った。

 

「助かったよ。熱中症になった参加者の子達」

 

 そんな大人みたいな会話を「では私の班員達を待たせているから」と手を振って僕らの元に戻ってくる。大学生相手でも僕らでも変わらない対応。

 

「さて諸君、川の恵みを少しばかり頂こうじゃないか! いいね? 取りすぎ厳禁だよ」

 

 僕らに自然からの学び、そして持続可能な社会作りを僕らに教えようとしている。

 

「汐リーダー、あの……“くねくね“について何か分かった事ありますか?」

 

 腕まくりをして汐リーダーは僕らに混じってアマゴを掴んで早々に三匹捕まえたところで、川から上がった。要するに僕らにも三匹以上は捕まえるなという事なんだろう。腰掛けて汐リーダーは僕に言った。

 

「あぁ、それかい? うーん、そうだね。捕まえたかもしれないね」

 

 まだ和也と直がアマゴを捕まえるのに四苦八苦しているの既にアマゴを捕まえた汐リーダーは串に刺して焼きの準備に入ってる。「祐希、お前まだ一匹も獲れてねーじゃん」と現実を突きつけられた。

 

 僕はどちらかと言えば考えるの専門なんだ。小川に放流した魚といえ、動きが速すぎる。僕がFRSだからだろうか? 他のみんなができるのに僕には魚を捕まえる事ができない。こればかりは仕方ないか。

 汐リーダーが「魚の動きを読むといいよ。ほら」と言って僕の目の前で簡単にアマゴを捕まえてみせた。凄い! 汐リーダーには魚の動きが見えるのか。生き物の反応にまで詳しいなんて凄い。

 

「そういえばさっき言ってた“くねくね“を捕まえたって、この魚みたいに何か条件を見つけたんですか?」


 僕はオカルト方面ではなく理論的にそう汐リーダーに尋ねてみた。何故なら汐リーダーがまだ“くねくね“を捕まえていないから、「ふむ、祐希君は利口だね」と「予測するとそうかなって」と僕は分かりあったように汐リーダーとの会話が弾む。和也が「熱中症じゃねーの?」と茶々を入れる「うん、それもそうだ」と汐リーダーは頷いた。きっと和也の機嫌が悪くならないようにわざわざ気を遣ってくれたんだろう。

 和也め、汐リーダーを煩わせて……

 

「おや、直君上手に獲れたね。あと一匹だ。頑張りたまえ!」

 

 話をしながらしっかりと直の事も監督している汐リーダー。本来の汐リーダーの役目は水場で僕らに危険がないように見張る事。その一番大事な仕事をまっとうしているのだ。というか、直。もう二匹も捕まえたのか……僕なんか、汐リーダーが捕まえてくれた一匹しかなのに、これはまずい。汐リーダーの参謀である僕がこんな体たらくでは……

 

「やった獲れた!」

「おーい! 祐希、あとはお前だけだぞー、先食ってるからなー」

 

 オヤツに焼き魚ってどんな状態だよと思うけど、食べてる三人を見て僕も俄然焼きアマゴが食べたくなってきた。どうにか頑張って捕まえたいけど、僕にはこの魚を捕まえる事ができる未来が全く見えない。残って給食を食べさせられている奴みたいだ。

 

「祐希お兄ちゃんはい!」

「しゃーねーな。俺も一匹捕まえてやるからよ。さっさと食って川遊びしようぜ」

 

 絶望していた僕に二人が代わりにアマゴを捕まえてくれた。自分がFRSを発症していると確信してからこうやって誰かと協力して何かをしたのは初めてかもしれない。

 

「助かったよ二人とも、足を引っ張って悪かったね。さぁ、魚を食べよう」

 

 テーブルに汐リーダーはカレー粉、洋胡椒、激辛のハバネロパウダー、コーンポタージュスープの元まで用意してくれている。

 

「焼き場にいるリーダーにアマゴを渡して焼いてもらうといい」

 

 僕らは頑張って串に刺したアマゴを持って焼き場に行くと男性のリーダー達が火の近くに串を刺してくれる。あとはしっかり火が通ったか確認して僕らに渡してくれる。

 

「さて、ここはか。“くねくね“は出てこなさそうだね。残念だ」

 

 と、意味深な独り言を言っている汐リーダーの言葉を僕はしっかり聞いた。

 今日の夜はテント泊最終日となり、キャンプファイアーが催される。「トーチ用の雑巾を忘れずにね」と汐リーダーは再びリーダー達のミーティングへと席を外した。明日の最終日までに和也は汐リーダーに告白するのだろうか? 


 そして僕は?

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