第八話 “くねくね“の正体、汐リーダーによって今回のそれは示された
キャンプ最終日、本日の予定が鎧塚というリーダー達の中の総リーダーより発表された。ラジオ体操の後に朝食、そして畑仕事体験を得て、最後はBBQ、肉が食べられると和也や一部の参加者達達から歓声が上がった。僕はただでさえ鮮度が落ちていくのに外で肉を焼いて食べるという行為そのものに割と否定的なのだが、このメンバーで何かをするのは今日で最後になるわけだし楽しもう。
そして、あの竹箸作りはここで使う物だったのか、カレーとかサンドイッチとか箸が不要な物が多かったから単に時間を潰す為のプログラムだと思ってたのに、自分のお箸で食べるとなるとひとしお美味しい気がする。
当然と言えば当然だけど、BBQというか野外の焼肉だ。一度あの串に刺さったBBQを食べてみたい気もするけど、よくよく考えると食べにくそうだし玉ねぎを丸まる一枚輪切りは少し僕もキツいしこのタイプの方がいいな。
そう思っていたら汐リーダーは恐らく自作の長い竹串に肉やピーマン、玉ねぎにソーセージとあの誰しもが思い浮かべるBBQのそれを作り出して端の方で焼いている。
ここ二日、僕らは汐リーダーと一緒に食事を取っているけど汐リーダーには好き嫌いという物がないようだ。さすがと言うべきか、僕らと生活している間、汐リーダーの弱点と呼べる弱点は何一つとして見当たらない。
火の扱いは男性のリーダー、それも大学生の人がメインに女性のリーダーは僕らのように網の前に座って班員達の面倒係らしい。お肉は沢山あるし、鉄板が用意されている事から恐らく焼きそばあたりを作る事を計画しているんだろう。となるとデザートは焼き芋? でもこの前の火おこし体験で食べたしな。汐リーダーは自分で作ったBBQ串を豪快に一番上から食べていく。肉も野菜も実に美味しそうに食べる人だ。
僕が見惚れていると、汐リーダーに気づかれた。そして僕の紙皿を見て、ひょいひょいとお肉に野菜を入れてくれる。僕がお肉を取れないと勘違いさせてしまったらしい。
また、僕はこの人の手を煩わせてしまった。自己嫌悪だ。
「うめー! 祐希、コーラ飲むか?」
そう言って空になった僕の紙コップに和也はコーラを入れてくれる。「紅月リーダーもどうです?」と和也は昨晩の告白の件なんてもう忘れたかのように自然に話しかけるので、汐リーダーも紙コップを差し出した。
「和也君、ありがとう」
時折、汐リーダーは直の口元を吹いてやる。「直君も沢山食べたまえ」と話しかけていた。
「真ん中の網を鉄板に変えて焼きそば作るのでできたらみんな是非並んでください! この日の為にお好み焼き屋さんで修行してきました」
リーダー達、彼らは本当に僕らを楽しませる為に集まったのか? 「焼きそば僕だーいすき!」と直が言う。
「じゃあ、直くん、一緒に並ぼうか?」
まさか僕がこんな事を言うなんて思いもしなかった。直は嬉しそうに僕と手を繋いで大学生の男性リーダーが作る焼きそばをもらいに並んだ。僕らが手を繋いで並んでいるのを見て、焼きそばを作っている男性のリーダーが「仲良くなったなー! ご褒美に大盛りだ!」とめちゃくちゃ盛られた。
これは和也にも少しシェアをして食べてもらわないと処理に困るぞ。まだお肉だって一杯あるし、なんならこの後、デザートだって待ち構えてるだろうから、汐リーダーも少し食べるだろうか? そう思って席に戻ってきたら汐リーダーの姿がどこにも見えない。お手洗いだろうか?
和也に焼きそばをシェアしながら、僕は汐リーダーの所在を和也に尋ねた。
「紅月リーダー? そういやどこ行ったんだ?」
汐リーダーは食べる事がを何よりも楽しんでいるように見えた。きっと彼女の事だから、水分補給も計算している筈。「ちょっとトイレ」と言って僕は汐リーダーを探す事にした。なんとなくだけど、僕の予測が正しければ汐リーダーは“くねくね“を捕まえに行ったんじゃないかと思うんだ。
彼女が食事よりも興味を持つ物は僕は今のところそれしか知らない。
「汐リーダー、何してるんですか?」
汐リーダーは思いのほかすぐに見つかった。BBQ場から200メートル程離れた咲、田園風景を眺めて「あれかな?」と独り言を言っていたところ僕に声をかけられて嫌そうにするわけでもなく振り返った。
汐リーダーが眺めていた畑の先にはカカシが立っていた。まさか、あれが“くねくね“の正体だったとでも言うのだろうか? 何らかの環境が整いシュリーレン現象でも起きればそう見えなくもないか?「祐希君か」と汐リーダーは言う。
僕の元へとゆっくりと歩いて戻ってくる。
「あのカカシが“くねくね“の正体なんですか?」
「そうだね。
「
汐リーダーはさらに遠くを指差す。そこは何やら煙が立っていた。あの煙が正体だと言うのだろうか? あの煙がカカシに入って踊るのか?
「この三日間で倒れた人はリーダーを合わせて三人なんだ」
リーダーが倒れたというのは初耳だった。それにしてもあの煙が“くねくね“の正体でカカシがその依代だという事に僕はいまいちピンとこない。
だから、僕は素直に汐リーダーに“くねくね“の正体について尋ねる事にした。
「あの煙はなんなんですか?」
汐リーダーが語る話。それは僕には調べる術がない話だった。
「マリファナ、大麻草だよ」
「大麻ぁ!」
「うん、有名な麻薬だね」
「なんでそんな物が」
汐リーダーはあの煙が畑焼きであると教えてくれた。
話を聞くとこのあたりの畑が大麻を作っているヤバい農家というわけではなかった。「大麻草って案外どこにでもあるんだよ」と、野生の大麻草。それをこの辺りの農家の人が知らず知らずに普通に肥料として畑焼きに使っていると汐リーダーは笑って教えてくれた。今回倒れた三人は運悪く、その煙の中に大麻成分がある物を多く吸ってしまったんだろうと。
「作用の一つに物は揺れて見えるんだ」
そして汐リーダーは再び遠くのカカシに見立てて人差し指を立ててそれを揺らしてみせた。さらに汐リーダーは「判断力が低下してそれを見れば?」と僕に一つの怪異の正体を語ったのだ。これはあまりにも理にかなっている。「どうして分かったんですか?」と僕が汐リーダーに恐る恐る聞いてみる。
汐リーダーは僕を見ていつもの優しい微笑みではなく、何か面白い物でも見た表情をして僕を見つめている。もしかして、僕がFRSであるという事を見抜いたんだろうか? そう、僕なら汐リーダーの隣に並んで歩いてもきっと恥ずかしくない筈だ。
僕は何かを言おうとした時。
「失礼、祐希君、このままゆっくり離れよう」
突然の事に頭が真っ白になった。僕の顔は汐リーダーの平均より大きな胸に押し当てられている。そしてその場から移動。
柔らかくて、そしてなんだかいい匂いが汐リーダーからはした。これが女の子の香りなのか、大人ではない僕はドキドキと心音を聞かれまいと必死だった。汐リーダーのこの行動は汐リーダーから離れてようやく理解した。「すまないね」と口元をハンカチで覆っている汐リーダーの姿。
遠くを見ていたけど、すぐ近くでも畑焼きが行われていたのだろう。それにすぐさま気づいた汐リーダーは僕に煙を吸わすまいと「汐リーダー、大丈夫なんですか?」と僕は心配した。汐リーダーが“くねくね“の影響でどうにかなってしまうなんて絶対に嫌だ。
泣きそうな僕を見て汐リーダーは言った。
「嗚呼、大丈夫だよ。でも
何を言っているのか分からずに僕は汐リーダーを見つめていると。
「私はね? 知っているかな?
信じられなかった。でも、今にして思えば汐リーダーの立ち振る舞い、そして見ている展望。その全てが常人ではないと僕を感動させてくれた。FRSを発症していたのは僕じゃなくて…………汐リーダーだったんだ!
「汐リーダー、あの好きです」
僕は気がついたらそう言っていた。「そうか」と汐リーダーは驚くわけでもなく言った。
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