第四章 青少年キャンプでクネクネは見れるか? 全9話

第一話 サマーキャンプに嫌々参加したら、面白いリーダーに出会った

 夏休みに年上、年下とバラバラの年齢の連中と行動を共にするサマーキャンプ。


 そんな物に僕が強制参加させられているのは体裁を気にする母と、母に教育を任せっぱなしの父のせいである事は明白だった。小学校の授業もつまらなくて寝て過ごしてテストは満点を取っていた仕打ちがこれだ。

 所謂教育ママと呼ばれる母は僕の頭の出来に恐怖した。勉強はしてほしい。だけどできすぎるのは困ると言ったところなんだろう。はっきり言って迷惑な話以外の何者でもない。


 僕はこんな場所キャンプ興味がない。


 リーダーという大学生、高校生連中「よろしくお願いしまーす!」と馬鹿みたいな大きな声で挨拶し、これまた馬鹿みたいな参加者達の心を掴んだFラン大学生らしい男。僕がリーダー連中に教えてあげられる事はいくらでもあろうが、僕が彼らから教わる事なんて何一つないんだろう。だから、こんなキャンプに参加する事自体が僕からすれば時間の無駄遣いだ。

 そして参加する連中の素行の悪さも見て取れる。下は小学校三、四年から一番上は中学生。僕は小六である為、丁度中間くらいの年齢に位置する。要するに、年下と年上と三人班を形成する事になるわけだ。控えめに言って最悪だ。面倒臭い年下の面倒を見なければならないし、さらに面倒臭い年上へ気遣いまでしなければならないのか? ちょっとした地獄じゃないか、そして極め付けは各班に一人、リーダーなる高校生以上の年長が受け持つ事。


 さっき挨拶していた筆頭らしき声だけでかいパワー系の無能な大学生の男以外であればもう誰でもいい。僕はあーいう大きな声で威圧してくる系の人間が心底嫌いなのだ。言うなれば学校の教師に近いしいクズだ。

 各班のリーダーが選ばれて、決まった班はリーダーと共にしばしのトークタイムが催されるらしい。歓喜すべきはあの馬鹿でかい声しか取り柄のない生まれてきてはいけなかった無能な大学生の男は早々に同じようなパワー系の班と一緒になってくれた事だろうか?


 そしてやってきたの僕らの班のリーダーは高校生の女子だった。身長は平均くらい、やや太い眉。顔は……多分少し可愛い分類に入ると思う。中学生の班員がリーダーの胸に注目している。多分、平均より大きいサイズなんじゃないだろうか? 真面目そうで、こういうリーダーには向きそうにない大人しそうな人に見えるのだが、もしかすると何らかの理由で僕みたいに嫌々参加させられているのかもしれない。「諸君、よろしく」と彼女の第一声を聞いて、そうじゃないという事を僕は何の確信も持てないが理解させられてしまった。


 リーダーの名前は、紅月汐リーダー。紅月リーダーでも汐リーダーでも好きに呼んでくれて構わないと言った彼女の発言が何だか気に入らない。僕らに選択権を持たせたつもりだろうか? ここにいるメンバーは全員男子、聞かずともみんな苗字の方の名前を呼ぶだろう。だったら僕は、彼女の事を汐リーダーと呼ぶ事にしよう。彼女がどんなに毅然な態度を取っていたとしてもきっと僕をガッカリさせてくれるに違いない。


 高校一年生、たかだか四年しか違わない。僕が嫌いな者。先に生まれたからって自分の方が偉いと思っている愚かな連中全てだ。それは古き、悪しき日本のしきたりらしい。僕が嫌いな年上として真っ先に挙げられるのが小学校の教師達。連中は学校という社会しか知らない。そして周りを見れば十代前半の子供しかいないわけで連中は理不尽な事も支離滅裂な謎理論も子供だからって舐めてかかってくる。この世界において一番生まれてきては行けなかった大人だ。

 そしてこのキャンプ……周りを見渡せば、フレンドリーという名のデリカシーにかけるリーダー達の馴れ馴れしい馴れ合い。

 僕はこんな場所に三泊四日もいなければいけないのかと気絶しそうだった。汐リーダーに至っては僕らを見て何か考えている。どうせ、数少ない女の子の班のリーダーになれなかった事に戸惑っているのだろう。僕は配慮できる人間だが、他二人はどうだろうな? 

 

 そんな汐リーダーの第二声。

 

「中学生の和也くん、小学校高学年の悠希くん、そして最年少の直くんか」

 

 僕らの名前を覚えてたらしい。中学生の和也は名前を覚えられた事で、ニヤニヤと笑って、実にくだらない質問を汐リーダーに投げた「彼氏はいますか?」と、こんな中学生にはなりたくない。

 

「はははっ、残念ながらそういう存在はいないね。可能性のある一人はいたんだが、まさかの同性になってしまったよ」

 

 笑っている和也と状況は理解できないが、なんとなく楽しいと笑う直。僕だけが、汐リーダーが付き合う未来があったかもしれない相手が、何年か前に制定された性別選択の権利を行使して男から女になったという事を理解しているのだろう。僕は少し汐リーダーに興味を持った。

 

「汐リーダーはなんでキャンプのリーダーになったんですか?」

 

 僕の質問「ふむ、そうだな」と汐リーダーは考えている。僕のような小学生相手にでも包み隠さず汐リーダーは考えて答えてくれるらしい。少しだけ、僕の周りにいる年上じゃない。

 僕の大嫌いな言葉、“成長“という言葉を汐リーダーは使うだろうか? 年下と自然の中でキャンプをする事で自分も教わる事があって学び、成長できるなんて吐き気を催す事を言うようならば期待外れもいいところだ。でもなんとなく、汐リーダーはそんな事言わない気がする。「年上、年下合わせて大勢いるから私の好奇心をくすぐる事が何か起きるかと思ってね」と笑った。


 これも和也と直を笑わせるのに成功した。だけど、僕は気づいてしまった。本当に汐リーダーは本心でそう言った。何故なら、本来リーダーとして僕らを導く必要があるはずの彼女は僕らに対して対等に扱いつつも全く興味を示していない事に……。

 いや、たかだか四歳しか違わないんだ。もしかしたら汐リーダーは思いの他子供の感覚で生きてるのかもしれない。「逆に君たちはどうしてここに?」と汐リーダーが興味深そうに尋ねてきた。


 和也は普段一緒にいるメンバーが海外だの国外だのと旅行に行ってしまったから親に言って何か自分も特別な体験がしたいとここに、直は父親がキャンプ好きで直にもその楽しさを知って欲しいと申し込んだとか、「僕は親に嫌々いくように言われただけです」僕は僕の身に起きた事を素直に汐リーダーと他二人に言うと不思議そうに見つめられた。

 やはり僕は他とは少し違うらしい。こういう視線を向けられるのは一度や二度じゃない。以前図書館で読んだ本に、幻想認識症候群(ファントム・レコグニッション・シンドローム)。通称FRSという未だ解明されていない奇病があると知ったけど、もしかすると僕がそのFRSなのかもしれない。


 だったら少し合点がいく。


 これからお昼前にキャンプ開始式という実につまらない催しが行われるらしい。そこで何かしら宣誓しなければならないのだろうか? 悪徳商法か?

 汐リーダーはアップルウォッチを確認すると、「そろそろ時間だね」と僕らを引率して馬鹿でかい声の男が高い所に立ってマイクを持って待っている場所へと連れていく。僕らの並ぶ場所を確認すると先頭に汐リーダーが立ち、僕らはその後ろに並んだ。「思ったよりも簡素なステージだな」と男が立っている所を見て汐リーダーが呟いた。

 気になるのはそこなんだと僕は呆れる。他の班はすでにリーダーと打ち解けている中、僕らの班はなんだか踏み込めない距離感を汐リーダーから感じる。「このキャンプで自然に触れ合い共に成長できる仲間との出会い、一夏の思い出になれるように! 楽しまないの禁止!」と実に寒い事を言う男。こんな奴がこれからの日本の社会を回していくのかと思うと少しゾッとする。

 和也は汐リーダーのお尻をじっと見てニヤニヤしてる。デリカシーのないやつだ。直は僕の服の裾を握ってくる。振り払うのも面倒だから放っておく。

 

「ふぅ、ようやく解放されたね。お昼を作ろうか?」

 

 僕らの誰もが思っても言わなかった気だるかったという一言をその場で言った後に本日のお昼ご飯、カレーライスの材料を受け取り、炊事場にみんなで運ぶ。

 汐リーダーは和也に野菜と肉を切るように指示、僕と直に鍋の様子を確認するように、「私は米を炊こう」と飯盒にお米と水を入れて、手際よく炊飯を始めた。

 予行練習のようなものがあったんだろうが、それにしても汐リーダーの手際は良い。見た感じアウトドア派ではなさそうだけど得意なのかもしれない。飯盒を火にかけると、汐リーダーは僕らの様子を見るどころから、文庫本を取り出して読み始めた。

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