第八話 紅月汐、貴女は今。どこにいますか?

 新幹線大事故から二ヶ月が経った。死者を二百名も出した凄惨なそれはいまだにトップニュースとして報道されている。

 

「死者の中に紅月汐がいない」

 

 安堵と共に不安に思った。「もしかして」あの時、汐が名乗っていた名前は偽名だったのだろうか? 「でも……」そもそも新大坂から新首部しんこうべに行く新幹線に汐くらいの年齢の子は乗車していなかった。

 私は新幹線の中で友達になった女の子がいたと鉄道会社に申告し、調べてもらった結果、そんな子はおらず、一番近い年齢の少女は中学生と小学生の姉妹で両親と共に家族旅行中だったらしい、写真も特別に見せてもらったが別人だった。


「汐、貴女は一体誰なの?」

 

 この話は希空や友達にももちろん語った「それってさー、もしかしてその女の子。守護霊か何かで蓮美を守ってくれたんじゃない?」とか言われた。

「確かに悪い何かだったら、私を電車に残るように行って、あの事故に私を巻き込ませたかもしれないけど……」

 

 汐からもらったお菓子の袋がある。記載のあるメーカーも住所も存在しないお菓子。手の込んだイタズラだと取り合ってもらえなかった。

 

「汐に教えてもらった電話番号も現在使われていない番号だし」

 

 私が、これ以降の人生において不思議な体験をする事はなかった。新幹線に乗る度に思い出す不思議な女の子、紅月汐。大学、就職と忙しい日々の中、実家への帰省の新幹線の中、携帯電話が着信した。そこには、“紅月汐“としっかり表示されている。マナー違反と分かりつつも出ようとした時。「電話、やめてください! ペースメーカーつけてます」と、言われてしまい電話の電源切り、停車駅で私は慌てて着信に折り返した。

 

“おかけの電話番号は現在使われておりません。番号お確かめの上……“

 

 これが、汐からの最後のコンタクトだった。


 貴女は今、どこにいるんですか?

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