第五話 未来人を否定した汐が別世界線とかいう電波な話をしてきた
随分汐と打ち解けた私はお互いの学校の事、夏休み明けのテストの事、そして進路の事について語っていた。そんな中で「汐ってデートクラブって知ってる?」と少しばかり背伸びした会話を投げかけてみた。切り出した私は使った事はなかったけど、私のクラスでもお菓子を食べるだけでいくら貰えるとかで通っている子はいるらしい。果たして、汐はそういう会話に関しての免疫があるのか楽しみだった。
汐は私の話をゆっくりと聞いて、少し考える。そして汐はこう切り込んだ「蓮美くん、私達の市場価値分かるかい?」とセリフっぽく語った。
それは友達でも、親でも学校の先生でもない私の知らない世界からの考えのようだった。
「推し活しかり、私達の経済効果は数十億市場だよ。端金でつまらない大人に操られるのは非常に勿体無いと私は思うよ? 人それぞれ考えがあり、環境が違えどもね」
「汐って本当に私の一個下? というか女子高生なの?」
学校では援助交際はダメだといっておきながら、性犯罪にあった生徒へのケアは基本行わない。汐はしっかりと考えて答えてくれるんだな。
「あれかい? 蓮美くんはもう経験済みなのかい?」
「いやいや、なんでそんな話になるのよ! 私は………。ないわよ」
「そうなのかい? 最近の子は早熟だと言うし、そういえば私の周囲でもそういう話はあまり聞かないねぇ」
汐の発言には学生特有のノリのような空気は一切感じられなかった。ただ思った事を言っただけなんだろう。性に興味がないわけじゃないと思うけど、汐にとって恐らくもっと興味深い事に今意識が集中しているような気がする。出会って数時間で汐という人間をここまで理解してしまった私も大概ではあるけど、汐からすると新幹線に乗る事がそんなにも興味深いんだろうか? まぁ乗る機会が無かったのかもしれないが。
景色と、車内をと汐は実に楽しそうにみている。
目的のない旅をしている汐、彼女の事を私は最初未来人ではないか? と思っていたけど汐は何処か良い所のお嬢さんで、実はお忍びで一人旅を敢行しているとかじゃないだろうか?
そう考えると汐が妙に達観している事も、珍しい携帯電話やお菓子を持っている事も頷ける「どうしたんだい?」と私の視線に気づいた汐、「汐って実はどこかのご令嬢?」と素直に聞いてみる。汐は私を見る瞳を少しばかり大きくして否定するように首を横に振った。さっきも言ってたけど汐の家は一般家庭だというのは間違いないらしい。
私は携帯電話で汐をパチリと撮影した。特に嫌がるそぶりもなかった。もう後少しで汐との時間が終わってしまう。正直な話、大坂へ行くより汐とこのまま新幹線に乗っていたい。
ティロンと携帯から着信音。
“もう新大坂におるから、お土産期待してんで!“
従姉妹の
とはいえ、希空にも返信してやらないと煽りがくる。
“あー、お土産ね。希空の好きな卵形のお菓子買ってきたから、楽しみにしててよね! ちょっと寝不足だから、残りの時間新幹線で寝るね! ユニバでは思いっきり遊びたいからさ、じゃあ後でね!
こんなところだろう。すぐに希空から着信、ええい!
“マジで? 楽しみに待ってるわ! お・や・す・み!“
よし、これで希空をしばらく黙らせることができた。希空には悪いけど、いつでも話せる希空より、今は汐との時間を少しでも大事にしたいわけだ。何か面白い話を一つでも多く汐から聞きたいし、邪魔者が消えた事で私は汐と話すネタを考える。いや、意外とそう思うと何も出てこない。汐であればどんな話でも食いついてくれるんだろうけど。
私は新大坂で降りるわけだけど、汐はどこへ? 新幹線の終点は加護島駅だけど、汐なら行きそうだな。行き先は決まっていないって言ってるけど、もう話すネタがそれくらいしかなさそうだ。迷ってはいられないし、景色を楽しんでいる汐に私は話しかける事にした。
汐は景色を見てはメモを取っている「汐、何を見ているの?」と聞き返すと、汐は何やら文字をメモしていた物を見せてくれた。
どストレートにツッコむ「何これ?」と聞いてみると、汐はふむと頷いてメモにさらに追記をした。
だけど、私はこんな事ではもう驚かないよ。汐が変人である事はこの数時間で理解しているし、その反面とても良い子という事も重々承知だ。そしてこの意味不明なメモも無意味な事じゃないはずだろう。「それも意味分かんない。どういう事?」と聞いてみれば汐であればちゃんと説明してくれるハズだ。そうでしょ?
私が、そう尋ねると、「これは所謂、別世界線というものの存在を信じざるおえないのかもね」と返してきた。
「だからどういう事よ?」
隣にいるのに、汐はどこか違う場所から私を見ているようだ。私の質問に対して嬉しそうに汐はさらに意味不明な説明を私にしてくれた。
「“きさらぎ駅“から東京駅、いや
“きさらぎ駅“から統京駅はそりゃ二時間くらいで行けるけど、認識が近いの意味も分からないし、本当に……もしかしたら私が最初に考えていた事が事実なんじゃないだろうか?
「汐、ちょっと変な事言うね? もしかしてなんだけど、汐ってさ。私よりもずっと未来の日本から来た人だったりする?」
私の質問に汐は目を大きく開いて驚いているようだった。
「あぁ! ハハハハハ! 成程、そういう考え方も面白いね。だがしかし、残念ながら私は未来からやってきた人間というわけじゃないね」
「そりゃそうだよね。変な事聞いちゃった」
珍しく大きく口を開けて笑っている汐がとっても可愛くて、私も釣られて一緒に何言ってんだんだよ私と笑ってしまった。そして、聞きたくなかった。新大坂到着のアナウンスが聞こえてきた。
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