最終話 世の中には、理屈では説明できない事がまだまだあるらしい

「やはり乗るべきだったね」

 

 結局私も大前茜もビビりまくって“きさらぎ駅“の電車に乗る事はなかった。

 そしてあれ以降“きさらぎ駅“を出現させる事が出来なかった。あの時は汐の策にまんまとのせられたわけで、そう何度もできる事じゃない。気がつけば元の駅構内にいた私達は現実世界に戻って来れた事をよしとしよう。

 しかし、まさか嘘から出た実、それも都市伝説が存在していた事にガチで私はしばらく夜一人でトイレに行けなくなった。ちなみに大前茜は久しぶりに登校しリアルに“きさらぎ駅“を見たとクラスメイトに言ったらしい。今までは嘘だったと自ら暴露し爆死した事は言うまでもない。


「茜ちゃん、学校行ってるらしいよ」

「そうか、とらの相談は一応成功だな」


 汐は“きさらぎ駅“を出現させる事を諦めていない。

 それだけに飽き足らずその他の都市伝説にも興味を持ち始めている。見たら発狂する“くねくね“とやらを見たらFRSの自分はどうなるんだろうかとか、リアルに殺人事件にまで発展した事がある海外のスレンダーマンと会話してみたいだとか。

 知的好奇心の怪物、紅月汐はFRS以外の事象も存在するという事を知り、ここ最近は見るからに肌艶がよくなり、機嫌もいい。間違いなく私は今回の件で汐をこの世界にしばらく引き留める事に成功したと思いたい。

  

「汐、今楽しそうね?」

 

 私のその質問に瞳孔を開いて汐は笑う。

 

「いやぁ、本当に最高の気分だよ! 確かに私は他の人より見ている世界が少しばかり違うのかもしれない。だけど、“きさらぎ駅“あんな物がこの世界にまだ存在していたとは思いもしなかった。茜くんのようにあーいう物を狙って見えている人々が実に羨ましいよ!」

 

 汐は目の色を変えてそう語る。確かに、世の中の怪奇現象の殆どはFRSと言われているけど、殆どじゃない一部は本当の怪奇現象なんだ。

 

「どうだい? 夏休みは“きさらぎ駅“を経由して心霊スポット巡りの旅でもいかないかい?」

「うーん、絶対嫌」

 

 そう断ってみたものの、今年の夏休みは汐にあれこれと連れ回される予感しかしない。今度図書館でホラー作品でも借りて耐性つけようかな。

 今回の件で汐の魅力に取り憑かれベタ惚れした大前茜が本気で性別選択において男性になろうかと真剣に考えている事を私も汐も当然知る由もない。私は気づいていなかった。私の隣にいる紅月汐もまた怪異の一つである事を。

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