最終話 猫の観察が終わり私は思う。改めて汐は変人であると

 翌日、私はここ最近の苛立ちとかそういう事に関して反省していた。

 俺、こと鳴上永空なるかみとらは学校に行っても紅月汐こうづきうしおのそばには見えなかった。

 本当に彼はいなくなって……いや私の中に戻ってきたのだろう。私は真弓達にひとまず謝罪し許しを得た。汐はというと昨日までと打って変わって私の事なんて興味もないようによく分からない本をいつも通り、無表情で読んではページを捲っている。

 

 嗚呼、いつもの光景だ。


 俺こと、鳴上永空なるかみとらに言われた建前、たまに話しかけてあげてと言われたけどさ、これ無理じゃね? そもそも近寄るなオーラ出てるし「とら、どしたん?」といつものメンツが話しかけてくるし、このままいつもの流れに乗ったらいつもの日々が戻ってくるんだろうな。多分、それが一番楽で、一番安全なんだろうな。



 よし!

 

「ごめん、明日香。ちょっと今日は紅月さ……じゃなくて、汐とお昼食べるんだった」

「そうなん? とらそんな紅月さんと仲良かったっけ? じゃあ、真弓達にはあーし言っとくよ。じゃあまたね」

 

 さて、もはや退路はないな。


 話しかけて無視されたらもう二度と汐には学校では話しかけない事にしよう。だから、私は物怖じせずに教室に向かう。

 汐はいつもお手洗いで手を洗って十二時三十五分、自分の席でお弁当を広げて、図書室で借りた本を読みながら粛々とランチタイムを過ごしている。ぼっちと言うには存在感が強すぎて、いつも通り、そんな装置みたいに汐はそこにいる。卵焼きを箸で摘んで眺めている。


 マジで謎の行為ね。

 

「おや? 誰かと思えば、倉田くんじゃないか」

「汐、昔みたいに永空とらって呼んでよ」

「うん、で? なんだい? とら」

「一緒にお昼食べよ」

「前の席、座りたまえ! まぁ、私の席じゃないけどいいだろう」

 

 私は気付けば中学以来疎遠になっていた汐とこの一件で再びつるむようになったのだけれど、改めて紅月汐は変人だと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る