第4話 そして紅月汐の思う通りに猫の観察は進んでいく
翌日、学校は遠足明けの土曜日、要するに休みである。なのに、俺は汐と共に近所のショッピングモールに来ている。
「本日は谷本君に呼び出されたわけだがここに来るのも久しいね」
普段、学校と家の往復生活をしている汐の言葉にはある種の重みすら感じるな。
「おや? 彼女、来たみたいだね」
俺もそれを見て「ほんとだな」と言葉を失う。
「紅月さん、待った? てゆーか来るの早くない? まだ十分前」
さらっと俺の事は無視されてる。
「いやいや、今来たところだよ。谷本君こそ早いね。それに実にキュートな格好だ」
素直に可愛いと日本語で言わないあたりが、鼻につく言い方だ。しかし、汐じゃないが、谷本真弓の私服は確かに可愛い。自分のスタイルをしっかり生かしてる。スポサンにロング丈のワンピース、そしてどこかのブランドらしいキャップをかぶっていて周囲の目を引いてる。
「えー、普通に合わせてるだけだよ」
女子二人と一緒に歩くというのがこんなにも息苦しいとは思いもしなかった。汐はファッションとか興味がないと思っていたが、よく見るとしっかり纏めてきているのには驚いた。
「紅月さんってかなりお洒落なんだね! めっちゃ可愛い!」
「谷本君に恥をかかせないようにね」
黒のスキーニージーンズ。足元はチロリアンシューズで纏めて、上はハイネックのセーターにショートコートを羽織っている。これから向かうのはどうやら
これからのシーズンに似合うピアスを一緒に見にきたらしい。谷本真弓は汐と俺に耳にあけたピアスを見せてくれる。それを汐は不思議そうに、珍しそうに見つめているので、こいつその内開けてくるんだろうかと嫌な予感がした。なんとなくだが、汐はピアスとかしない方が汐っぽい。
「さて、倉田くんの最近の趣味はどんな物なんだい?」
汐の質問に谷本真弓は最近みんなで撮ったであろう写真を見せてくれた。
「最近はこういうピンクゴールドのタイプにハマってるかも」
「いいじゃないか、実に似合っているね」
なんと心の籠っていない言葉だろう。
汐は自分の知りたい情報を探る為に相手が欲しい言葉を返しているに過ぎないと俺は睨んでいる。
「だよねー! 紅月さんセンスいいだけあって見る目あるね! このハートの形の子れとかどうかな?」
汐は“どれどれ“とさも興味があるように「ビューだね」と言った。
それがマイナーな北海道の方言で素敵だとか、最高だとか言う意味を谷本真弓は知るまい。
「じゃあこれにしよっか!」
とても嬉しそうに谷本真弓は汐と半々でお金を出し合って
それから買い物を終えた汐と谷本真弓と俺は珍しいカフェに入った。靴を脱いで足を伸ばして座れるソファー席のあるお店。谷本真弓はホットケーキとカフェラテ、汐はベイクドチーズケーキにホットレモネード。スイーツをシェアしようという谷本真弓の申し出に頷き二人はお互いのスイーツを食べさせ合う。汐が行うと百合営業に見えるのは何故だろう。
二人の仲が大分進み、汐は自分のベイクドチーズケーキを食べ終わる。「倉田くんが少しおかしいのは心と身体のバランスが悪いから」と意味深な言い方をする汐。「それってやっぱり?」と谷本真弓が言うので汐は頷く。
「そうだね。原因はそれさ。まぁ女の子の日みたいな物だよ」
しかし原因はその女の子の日、ではないらしい。
まぁ幻想認識症候群によるものなんだろうが……
「やっぱりぃ? 私達、気にしないようにしてたんだけど、何か気に障ったのかな?」
俺が見ていても、谷本グループは仲良しで表面上は悪くは見えないのだが。
「そんな事はないと思うよ! 私も谷本くんとこうして関わってとても充実している」
谷本真弓は「本当にぃ?」と嬉しそうに微笑む。汐は実際充実しているのだろう。次々に
そして、汐は
そのみんなに「俺は入っているんだろうか?」と声に出して言ってみたが、谷本真弓には完全に無視され、汐にはケラケラと笑われた。そもそも俺が今日来た意味はなんだったんだろう。別に
本日に至っては汐は俺を気にかけてはくれるが全く話しかけてはこない。汐に限って空気を読んで俺をいないものとしたとは考えにくいが、流石にこの仕打ちは酷かろうよ。
そして翌日、ちょっとした問題が発生した。
「とら、今のは酷くない?」
谷本グループの一人がそう言った。「別に欲しいなんて言ってないし」と
「真弓に謝ろうよ! とら、ね?」
逆にもう一人の女子は
状況的には昨日、谷本真弓と汐が購入してきたピアスについて一悶着あったようだ。当然の事だがカースト上位の揉め事に教室内が注目する。
「とら、その。ごめん。そんなに怒らないでよ」
谷本真弓の言葉は最もで、何か理由を説明しない限り悪いのは
「紅月さんと買いに行ったって……何話したの? 私の事?」
「違うって! とらが好きそうな物一緒に見に行く約束したんだよ。だって、とらと紅月さんって昔からの友達でしょ?」
そうなのか? 俺も幼馴染だが、全くそんな事実は知らないんだが。
「サイテー」
そう言って
「さて、じゃあ鳴上くん。私たちも行こうか?」
「倉田さんを追いかけるのか? やめとけって!」
どう考えても
汐は他女子の平均より大きな胸を上下させて教室を出ていく。
汐がやってきたのは学食のある校舎だった。そこで、紙パックのジュースを飲んで据わった目をしてこちらを見ている
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