5
この車に乗るのは二度目だな、と窓の外に流れる街灯をぼんやりと見る。
あれから俺達はすぐに島田さんの運転する車に乗り込み、夜の街を走っている。助手席に近江、後部座席に俺と加瀬だ。仙名は近江に「定員オーバーだ」と言われて乗車拒否された。
正直外車で広いので詰めれば後ろに三人は座れるはずだが、たぶん近江の嫌がらせだろう。散々文句と暴言を吐く仙名をなんとか加瀬が宥め出発した。
行き先は、白崎のアパートだ。
「確かあいつの部屋、リビングと廊下の間に仕切り扉みたいなのがあった気がするんだよな」
数日前のことなのに上手く思い出せないが、玄関を潜って部屋までにもう一度扉を開けたような気がする。記憶の中のボロいアパートを引っ張り出してみるが、曖昧にしか思い出せずにいた。
とにかくもう車は白崎のアパートに向かっているわけだし、考えても仕方がない。俺は窓の外に向けていた視線を車内に戻す。
「ところでさ、加瀬さん」
「よ、呼び捨てでいいですよ。たぶんあき、秋成さんとは歳近そうですよね」
私の
「あのさ、今更なんだけど、近江さんって霊能力者?」
俺の問いに、加瀬は一瞬ぽかんとして、それから本当に今更だなという顔をした。
自分でもそう思うが聞くタイミングがなかったし、直接本人に聞くのもなんだか委縮してしまっていた。とはいえ、車内で話す内容は全て全員に聞こえている。当然助手席に座っている近江本人にも聞こえているはずだが、彼から何かアクションが返ってくることはなかった。
「ええと、れ、霊能力者というのはちょっと違うか、かもしれないです」
「違うって?」
「近江さんは、近江さんの家がし、縛られている力を使うので……」
家が縛られている? 不思議なワードに首を傾げる。どういうことかと聞き返そうとしたら、先に加瀬が言葉を続けた。
「そ、それに、近江さんは幽霊が見えないので」
「はぁ?」
思わず大きい声が出た。いや、ちょっとまて。なんだって?
「見えないって、え? 幽霊が見えない?」
「は、はい。全く」
「俺ら今からその幽霊のところに向かってるんだよな?」
「そ、そうですね」
「なんとかしてくれるんじゃねぇの!?」
話が違う。なんとかできるっていうから僅かながらに信用してこうして車に乗ってるんだ。なのに、その本人が全く霊が見えない?
手に変な汗が出る。加瀬の向こうで街頭が線を引いて流れていく。
「あ、あの、大丈夫です! 全然、全く見えなくても、お、近江さん強いので」
「見えないのにどうするんだよ! ……あ、もしかして加瀬がなんとかしてくれるっていう……」
全然、全く、と強調した加瀬に背中から嫌な汗が伝ったが、そういえば仙名は近江よりも加瀬を頼って事務所に俺を連れてきたのだ。どう見ても近江の方が物理的にも精神的にも強そうではあるが、本命は加瀬の方だったのかもしれない。
そう期待して加瀬を見れば、前方でクッと笑う気配がする。近江だ。
「残念だが、
面白そうに笑うそれに、全身から力が抜ける。
霊が全く見えない男と、見えるだけで力のない女。なのに今俺達が向かっている先には、おそらく霊がいる。
完全に騙されている。
そう思ったが、今からでも引き返してくれという言葉は、それまで沈黙を守っていた島田さんがアクセルをヴォン! と踏み込んだことによって喉の奥に引っ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます