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 反射的にそっちを見る。ここの扉は鉄製で、向こうを確認する擦りガラスなどは嵌っていない。なので誰がノックしたかは分からない。

 島田さんか? と思った。声は聞こえないが何かの用事かもしれない。俺はほぼ無意識に席を立つために腰を浮かせた。

「駄目ですよ」

 こちらの動きを止めるようなピンとした声に浮かせた腰が半端に止まる。びっくりしてそっちを見ると、加瀬が扉の方をじっと見ていた。今の声は加瀬だったのか? 彼女は息をしているのか分からないくらい静かに扉を見ている。

 ふーっと近江が煙草の煙を吐いた。意外なことに気を使ったのか、煙は天井に向かって吐き出されている。その口がニヤッと笑った。

「あんまり遅いんで見に来たか」

 クッと喉を鳴らして笑うそれに、もう一度扉が叩かれる。

 こんこん

 それに脳内で近江の言葉を反芻し、瞬間ぞわりと鳥肌が立つ。

 扉の向こうにいるのは島田さんじゃない。あいつだ。

 思わず仰け反った体が仙名に当たって、彼女が「わぷっ」と声を漏らす。

「来たかって、あいつだよな! ど、どうすんだよ……!」

「気にするな、どうせ入ってこれねぇ。それより、場所は決まったのか」

「それよりどころじゃないし!」

 何事もないように落ち着いている近江に、こちらの顔が引き攣る。まだ加瀬は扉を凝視していた。

 冷や汗が流れる中、ノックの音は次第に激しさを増していく。

 こんこんこんこんこんここここここここここ……

 ――ガンッ!!

「ひっ!」

 最後は苛立って扉を殴ったような音が部屋全体を振動させた。そのまま扉が破られて向こうにいるあいつが入ってくるんじゃないかと息が止まる。仙名が自分の口から漏れ出た悲鳴を抑え込むように両手で口を覆った。

 息をするのも見つかりそうで呼吸が浅くなる。酸素不足になりそうな中、それまでじっと扉を見ていた加瀬が急にパッとこちらを向いた。

「だ、大丈夫です。諦めたみたい」

「っは……はーっ」

 そう言われて詰めていた息を吐き出した。仙名も疲れたようにソファに体を預ける。加瀬の言葉通りに、それ以降ノックの音は消えている。

 そういえば、ここの一階はコーヒーショップだった。あの、一回だけ顔を合わせた若い店員は大丈夫なのだろうか。島田さんも。あいつは階段を上ってここに来たんじゃないのか。二人は無事だったんだろうか。

 そう思っていると、「で?」と近江がこちらを向く。

「場所は決まったのかよ」

「どう見ても今それどころじゃ……。だいたい、もともとあれは白崎についてたんじゃないのか。それをなんで俺が――」

 そこまで言って、はたと気づく。そういえば……

「秋成くん? どうかした?」

 途中で言葉をを切った俺を、仙名が不安そうに見る。遠慮がちに腕をゆすられているのは、さっきのことがあるからか。

 俺はパッと顔を上げた。

「見つけたかも。四角い空間」

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