第5話

ぼくは悲しかった。

別人になってしまった音羽がいることに。

可憐ではっと目を引かれる姿に愛おしく思っていた。

もう一度戻れるなら今まで一緒に過ごしてきた君に会いたいが目の前の君は違う。

だが気付いたことがありループして初めて会った時の音羽より表情は和らいでおり少し安心しているようにも思える。

目の前の君は音羽であって音羽ではなく一体誰なんだと内心思っている。


少しの沈黙の中、少しでも安心させる言葉を探していた。 


「言ってきた通り危険な奴じゃないんだ。君とは友達で、、」


君はもう分かったからと言い遮るようにぼくのズボンを脱がし始めた。

ぼくは焦り思わず手を払いのけてしまった。


「何してるの君?ここはそういうお店なの。知ってて来てるんでしょ?何もされず事を終えましたとかネット上で書かれたら給料減っちゃうし。風評被害もんだし。恥ずかしいかもしれないけど裸になってもらうから。」


ぼくは抵抗もできず別人格の音羽に従うしかなく服を脱がされ裸にされると音羽も服を脱ぎ裸になった。


「何してるんだよ君は。恥ずかしくないのか」


ぼくは目のやり場を失い心拍数が高くなっている事が分かる。


「さっきも言ったけど仕事なの。そんなに緊張して君は童貞?若いんだからお盛んなのだと思ってたんだけどなあ。」 


「ぼくはただ君に会いに来ただけなんだ。目的はこんな事じゃないんだ」


ふーんそうなんだと言うと

"おとは"は手を握り溝がある椅子にぼくを座らせ体を洗い始めた。


「"おとは"君はなぜこんなお店で働いてるんだ?そんなにお金に困っているのか?」


音羽は少しの間、沈黙し口をひらいた。


「働き始めた当初は確かにお金に困ってたかな。今はズルズル行ってる感じかな。辞めるに辞められない感じになってるしね。真面目に正社員で働くよりも比べものにもならないくらい稼げるし、蓄えもできるしそこまで苦ではないかなって感じ。」


「なら辞めようと思えば辞めれるわけだ。ぼくは君の事情を知らないからもう辞めたらとか無責任な事は言えないけど君には幸せになってほしいかな。」


君はくすりと笑う。


「初対面の人に幸せになってほしいとか言われる日がくるとか思ってたなかったよ。ほんとあなたは変わった人だよね。」


そう言うと洗い終えたぼくの体をシャワーで洗い流すと手を握りお湯をためた浴槽に連れて行き裸の付き合いというものを人生で初めてすることになった。

君はぼくの方を向きそっと抱きしめると無抵抗のぼくの体に胸が当たり緊張のあまり心臓が高鳴った。


「あなたは変わった人だけど何故か安心できるんだ。遠い昔私たちは出会ってたのかもね。」


「"おとは"君の言う通り僕らは友達で君の付き合いでショッピングとか行ってたんだ。後で君の写真を見せてあげるからお風呂出ていいかな?」


君はこくりと頷きベッドの横に行きピンクのバスタオルで全身を拭きあげていく。

お互い体を拭き終えると君はぼくをベットへ押し倒しキスをしてきた。

初めてのキスが音羽なのは嬉しいが複雑な心境だった。

何せ君は音羽であって音羽ではないからだ。

ぼくの全身を舐めていくとゴムを取り装着した。

無抵抗のぼくの上で君は上下に揺れ感じているその姿に虚しさを感じる。

事は40分くらいで終え君はゴムを外しゴミ箱へ捨てた。


「気持ち良かった?初めの相手がウチで良かったなら良いけど。」


君は見抜いていた。

僕が未経験者だということを。

反論はできず目を逸らす事しかできなかった。


「照れてる。案外君って可愛いんだね。ウブっていうやつだ。さっき君が言ってた2人目の音羽を見せてよ。」


ぼくはバッグからスマホを取り出し前に石上、早坂、音羽、ぼくと4人でバーベキューした時の写真をスクロールして探す。

見つかったのだが君の顔だけモザイクの様なモヤがかかっていた。


「悪いが何故かモヤがかかってる。信じてもらえるか分からないけど本当に君なんだよ。」


「まぁ雰囲気は私に似てるけど。」


納得していない表情のため別の写真を探すことにした。

スマホをスクロールしていると何年も前に音羽の自宅で写真を撮った写真が見つかったがこれもモヤがかかっていた。


「またこれもモヤだ。ぼくの誕生日を音羽の両親が祝ってくれてその時撮った写真が何枚かあるんだ。これが証拠かな。」


ぼくはおそるおそるスマホを渡すと目は丸くなり驚いていた。


「これは私の実家だ。間違いないよ。間取りに家具の配置。懐かしいなあ。本当に君はこっちの音羽とは友達なんだね。信じざるを得ないよ。」


君は最後にもう一つだけ確認したい事があると言い飼っていた猫の名前を当てるゲームをするこになった。


「ミケ!」


2人の声が重複し思わずぼくらは笑顔になってしまった。

名前の由来は三毛猫だからミケとぼくが言うとそうそうと頷き満面の笑みで打ち解けているように思えた。


10分前のコールが鳴りぼくらは洋服を着た。

本来は体を洗うらしいのだが音羽とだからとどうでもよく思っていた。

君は内線で退出のコールを終えると優しく抱きしめキスをしてきた。

ぼくを出口まで案内すると手を振り今まで見たこともない笑顔で見送りをしてくれ店をあとにした。


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