第3話
カフェから出たぼくらは夏祭りの行われる場所へ向かった。
この夏最後の大イベントに街は人並みでごった返している。
太鼓の音色は風情を感じさせ夏の終わりも感じさせられる。
20時から上がる花火には40分早く着けたため花火の上がる角度から近い場所を探し腰を下ろした。
時間に余裕があるためか場所の取り合いにはなっていなくて安堵した。
ぼくらの座った位置からは河川敷に屋台が並んでいるのが見え音羽は物珍しそうに屋台を獲物を狙うような目で眺めている。
ぼくは何か食べたい物でもあるのか聞くと焼き鳥と飲み物が欲しいと言い場所が取られたら嫌なので音羽だけ待たせぼくが買いに行く事にした。
人混みを抜け河川敷の屋台に着くと風物詩の綿飴やリンゴ飴を持ち歩く学生やカップルがぼくの横を通りすぎる。
甘い匂いに釣られそうになるが一人ではお使いの物が持てなくなるので我慢した。
焼き鳥とラムネを買うと音羽の場所に戻る事にした。
河川敷から登り人混みを抜けると音羽が2人組と話しているのが見えた。
「音羽買ってきたぞ。夏といえばラムネでしょ」
「よっ!陽大、昨日ぶりだな。」
声の方向を向くと石上と早坂が不敵の笑みを浮かべ石上はぼくの体に肘を押し当ててくる。
ぼくは石上の肘を振り払いぼくは仕返しに嫌味ったらしく言った。
「どうして石上たちも居るんだ?二人はデートですか?」
「暇だったから早坂を誘ったら行こうかってなって来ただけだよ。決して下心があるわけではないし。ついでに早坂の妹にも会えるかもと思っただけだし」
石上は早口になり焦って見えた。
「そんなに妹に会いたいなら私帰るけど?
不要の様ですし」
早坂は本気で怒っている時は頬は膨らませず冷たい目で切れ長な目になる。
「どうして石上は女心が分からないんだ。女性てのはデリケートな生き物なんだよ。もっと大切に扱わないとガラスの様に粉々になるんだから。もっと素直にならないと」
「はい。仲直り。痴話喧嘩してもお互い良い事ないよ。石上くんも優香も素直になって」
音羽の真っ当な言葉に2人は落ち着きを見せた。
「私もケンカしたい訳じゃないし石上があんな事言わなかったら普通だよ私は。」
「ごめん早坂。早坂を怒らせるつもりはなかったから」
「優香はきっとツンデレなんだよ」
音羽に言われ照れながらそんなんじゃないしと呟いた。
急な出来事だった。
ぼくらは他愛もない会話をしている時
観客の大きな悲鳴と共に車はブレーキも踏まず人混みを抜け猛スピードでぼくらの方に向かってき、ぼくの隣に居た音羽だけを跳ね車は停止した。
まるで音羽だけを狙うように衝突してきたように思えた。
数メートル飛ばされ頭から出血し体には無数の傷があり反応が鈍いが意識はあった。
「石上か早坂救急車を呼んでくれ。」
石上が冷静な対応しスマホを取り出し電話対応をしてくれた。
早坂は音羽の胸元で泣き喚いてる。
数分も経たないうちに
「心臓が止まっている」
早坂は棒読みでぼくの顔を見ながらがっくりと肩を落とした。
「早坂。ぼくは必ず音羽を助ける。ぼくは今から彼女の胸元に両手を当て心肺蘇生を行う。意識の確認をしてくれないか」
声にならない声で早坂は頷いた。
ぼくは大勢の人集りの中心にいる。
きっと医者や看護できる人もいるかもしれないが自分の手で救いたかった。
石上も大声で助けを求めているが声が響くだけだ。
ぼくは無我夢中で心肺蘇生を行うが息は吹き返さない。
「頼むから音羽息を吹き返してくれ。ぼくの命を分け与えてあげるからお願いだ」
自然と涙が音羽の胸元に落ち服を濡らしていく。
「音羽お願いだ。君だけはぼくの前から消えないでくれ」
恥じらいなどなく言い聞かせるように叫ぶが何も変わらない現状に怒りも募る。
「音羽!!!」
大声で叫ぶと同時にぼくの意識は別の次元に引き寄せられた気がした。
目の前で横たわっていた音羽は居らず目の前で椅子に座っている音羽にぼくは驚いた。
見覚えのある景色だ。
隣には石上も居る。
石上の前には早坂も居る。
「音羽が生きている」
ぼくは思わず口にした。
「何言ってんだよ陽大。寝ぼけてんのか?」
「寝ぼけてないよ。石上。ぼくは夢を見ているようだ。音羽が生きているんだから」
3人は物珍しそうにぼくを見る。
「私は一度も死んでないよ。椎名くん本当に大丈夫?」
石上に日付を確認すると今日は8月10日でやはり時間を遡ったようだ。
音羽が事故にあった日が8月11日であり何かしらの理由で時間軸を超えた事に気付いた。
安堵もしているが明日になればまた音羽は事故に遭い生死を彷徨う事になる。
「音羽。確認したいことがあるのだけど明日は予定ある?」
「明日は椎名くんと会う予定入れてたんだけど忘れてた?椎名くん、何があったか知らないけど無理しないでね。」
大丈夫。明日はよろしくと言うと3人に心配されていた為ぼくは帰らせられた。
徒歩5分程で家に着き風呂に入る気力もなく悪夢の様な現実から逃げるように眠りについていた。
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