第2話

音羽と出かける時は必ず予定時刻の10分前にはムーというカフェの前で僕は待つ事にしている。

今回は音羽の用事の付き合いの為

行く場所などは決まっているが心を落ち着かせる為ブラックコーヒーを飲み予定時刻まで待つことにした。

音羽の性格上、遅刻することはないから気が楽だ。

スマホのニュースを見つつ街ゆく人々はどこに向かって歩いてるんだろと黄昏てると


「お待たせ~」聞き慣れた声に体は無意識に音羽の方を向く。


「やっぱり夏だから暑いね。暑い通り越して日差しが痛いくらいだよ。椎名くん今日私の用事に付き合わせて疲れちゃうだろうからお茶でも飲んで」


僕に500mlのペットボトルを渡すと急いで来たためか少し顔周りに汗をかいていてハンカチで拭き取るとカバンから折り畳みの日傘を広げるなり僕を手招きで呼び日傘に入りなよと合図をした。幼馴染とはいえ少しは緊張する。通行人の男の視線から感じるこの男とは不釣り合いだろと。視線も慣れたもので気にせず、日傘は僕が持ち音羽が行きたいと言っていた雑貨屋に向かう事になった。


「そういえば今日って夏祭りがあるんだね。椎名くんがよければ祭りでも行ってみる?ほら、椎名くんもう出店も出てるよ。出店とか見てると夏だって感じがしてテンション上がるよ。」


僕の隣で子供の様に浮かれてる音羽を見ていると心が落ち着く。

ぼくも特に夜も予定がないので祭りに行こうかと言うと満面の笑みでありがとうと言われた。


「着いたよ椎名くん。ここの雑貨屋さん。」

僕は日傘を畳み店内に入った。

店内の正面には指輪やネックレスがあり

レジ近くの透明のショーケースの中にピアスが並べられていた。

音羽がこっちだよとぼくの手を掴み連れていく。


「私ね少し大人な女性になりたくてピアスを買おうと思ってるんだ。椎名くんも私に似合うピアス探してよ。」


「でも音羽。きみはロングだからピアスが隠れると思うんだけどな。」

黒く長い銀色の髪。

幼い頃から艶のある髪質は長年手間暇かけてきた証だと思う。


「普段は髪を下ろしておく予定だけど、髪を耳にかけた時にチラッと見えるピアスがお洒落だと思わない?」


ただでさえ気品のある音羽が今以上に大人な女性に近づくと思うと自制心を失いそうだ。

到底音羽にこのような言葉は言えないため似合うと思うしお洒落だと思うよとしか言えなかった。


「サークルムーンのワンポイントのこのピアス音羽に似合うと思うんだけどな。」

店員さんを呼び音羽に試着してもらいきみを見ると今以上に美しく感じた。


「確かにお洒落だけど似合うかな?椎名くんが似合うと思うなら私もこれが良いなと思ってたから欲しいな。」


「似合うよ。」

照れ隠しでと言いたい気持ちは口元まで来ていたが言えるはずもなかった。

音羽はこれにしますと言うと会計を済まし僕らは店内から出た。


「椎名くんピアス付けたいからカフェでも行かない?今すぐ付けたいけど風で飛ばされたりしたら嫌だし」

音羽は大切そうにピアスをカバンに詰め込んだ。


「そうだな。買った物がすぐ無くなったり壊れたりした時の絶望感半端ないしな」

ぼくの体験談が返事になってしまった。


スマホでカフェの場所を探すとすぐ近くにインスタ映えしそうなカフェがあり向かった。

店内に入ると白と黒を基調としたモノトーンでシンプルながらセンスを感じる作りになっている。

僕らは案内された席に座りコーヒーを頼んだ。


「早速さっき買ったピアス付けちゃおうかな。」

カバンから取り出し左耳から付け右耳も付けたタイミングで左耳に髪をかけ大人なお姉さんになれたかな?と聞いてきた。


「音羽きみは充分大人だよ。とても似合ってるよ。」

お店の雰囲気に飲み込まれ思わず本音が溢れた。


「嬉しい。ありがとう。椎名くんてセンスあるよね。」


ぼくは音羽の久しぶりに心の底から溢れる笑みに恥ずかしさで目を背けてしまった。


「センスも何も音羽も一目見た時からこのピアスと思っていたんだろ?ならたまたま好みが同じだっただけだよ。」


「このピアスは椎名くんと居る時にしか付けないけどね。私の大切な思い出だから。」


きみは恥ずかしさというものを知らない。

ぼくなら赤面して言葉の大渋滞になっているはずだ。


「相変わらず音羽は何でも思った事を人に言えるよな。恥ずかしさとかはないのか?ぼくが買ってあげた訳じゃないが、気に入ってくれているなら嬉しいよ。」


「また今度違うの欲しくなったら買いに行こうと思うからその時はよろしくね。」


いつになるかは分からないが音羽とのデート約束が決まってしまった。

音羽、きみは人との約束の仕方が上手な女性だとつくづく思う。


「あと2時間くらいしたら夏祭りに行こうか?それまでは私の話相手になってよ」

ぼくは音羽が満足できるまで話に付き合いますと言った。


男が女性とついになった時は男がリードするものと思っていたがきみと居ると普通という感覚を忘れてしまう。

女性は喋らないと生きていけない生き物とも言われるが音羽きみはその象徴だと思う。

ぼくは音羽と話している時が唯一安らげる時間だ。

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