2・魔物に襲われていた住民を助けました

 ──馬車に乗って、数日後。


 ようやく俺の異動先、辺境の領地『クロテア』に足を踏み入れた。


「遠かったな……」


 宮廷魔導士の仕事の中には、長期遠征もあった。

 ゆえにこれきしの長旅でへこたりはしないが、今後の不安もあって、疲れを感じていた。


「それにしても、本当になにもないな」


 馬車に揺られながら、王都を発つ前に急いで用意した資料に目を通す。


 魔導士長やキースが言っていた通り、クロテアの状況は芳しくない。

 作物があまり育たず、そこら中に魔物が棲息しているため、開拓も進んでいない。

 あるのは森や山だらけだ。


 元々そこまで広くない領地ということもあって、人口も少ない。

 領地内で人の集落は、たった一つだけということであった。


 その集落の名はクロテア村。


 領主を継いだ孫とやらも、クロテア村に住んで村長を兼任しているらしい。

 現領主の情報も知りたかったが、ほとんど資料がないせいで、詳細は分からなかった。


「異常だな」


 辺境で小さい領地とはいえ、領主であることには変わりないのである。

 普通、もっと資料が残されていてもおかしくない。


 そもそもクロテアについても、国内であることにも関わらずほとんど情報がない。

 おそらく、国としてもクロテアは重要視されていないのだろう。なんなら、なくなってほしいと思っている節も資料から感じる。


領地……か」


 魔導士長が言っていたことを思い出し、ぼそっと呟いた。


 だが、左遷とはいえ仕事は仕事だ。

 宮廷魔導士として……ん? そもそも宮廷から離れるわけだから、宮廷魔導士っていうのも変なのか?

 いや、今回は左遷。クビにはなっていないし、出向という形なんだろう。


 もっとも魔導士長とキースの顔を思い出すと、王都に戻れるとも思えないが。


「まあいい。今は考えるのも億劫だ」


 これからの生活に思いを馳せていると、クロテア村に到着した。

 俺は馬車の御者に別れを告げて、村内を眺める。


「予想していたが、やはりほとんど人がいないな。建物も少ないし……ん?」


 瞬時、村の物々しい雰囲気に気付いた。

 いくら寂れた村とはいえ、人が少なすぎる気がする。村の奥からは微かに、人の悲鳴も聞こえた。


「まさか……」


 嫌な予感がして、走り出した。


 すると程なくして、感じていた異常の正体が判明する。

 魔物のボアが住民らしき人々を襲っていたのだ。


「村の中に入り込んできたのか!?」


 住民もボアを囲み、農具で必死に抵抗していた。

 武器らしきものを手にしていないようだが……もしや誰も、剣や弓を持っていないのか……?


「いや、今はそんなことを考えている場合じゃない!」


 俺は即座に攻撃魔法を放つ。

 

「フレイム!」


 小さな炎は住民の間をすり抜け、ボアに命中した。

 フレイムに貫かれ、ボアが倒れ伏せる。


「大丈夫か!?」


 駆け寄って、住民の一人に声をかける。


「今の炎……まさか君がやったことなのか?」

「魔法だよな? すごかった」

「俺たちが苦戦したボアを一発で……」


 住民は俺の存在に気付き、口々に褒める。

 それに答えず、俺は彼らにこう問いを投げかける。


「怪我をした人はいないか?」

「あ、ああ。なら二、三人は負傷者が現れるところだったが、魔物に村の中に入り込んできてさほど時間が経っていないしな」


 いつも?

 人里の中にまで魔物が入り込んでくるのは、王都ならかなりの異常事態だぞ?

 なのに『いつも』って言うことは……ここの人たちはこんな恐怖にいつも晒されてるってことなのか?


 クロテア村の現状に言葉を失う。


「村に入った魔物はこれだけか?」

「いや……村の他の場所には、まだ魔物がいるはずだ。あんたは旅の者か? だったら、こんなお願いをするのもどうかと思うが……俺たちを、みんなを助けてくれ!」

「もちろんだ」


 村に来て、いきなりこんなトラブルに巻き込まれるとはな。


 しかし慌てることではない。王都で働いている頃は、こんなトラブルは日常茶飯事だ。まだ可愛い方まである。


 そのためにも、怪我人を一人でも出さないようにしないとな。

 俺は村人たちと一旦別れ、村の中にいる魔物の掃討に向かった。



 ◆ ◆



「フレイム!」


 最後の一体を倒し、俺は一息吐く。


「ふう……なんとかなったな」


 これくらいなら、俺一人でなんとかなるが……毎日続くとなると大変だぞ。

 まずは村の現状を把握する必要があるが、魔物の討伐方法についても考えなくっちゃな。


 そんなことを考えていると、戦いを終えた俺に住民たちが次々に集まってきた。



「助かった! 君は強いんだな!」

「君みたいな強い人は初めて見た」

「カッコよかった……」


 

 なんか、ここまで手放しに賞賛されると嬉しさよりも照れが勝る。


「大したことない。これくらいなら、他の者でもやれたしな」


 頬を掻きながら答える。


 幸いなことに、村に入り込んできたのは弱い魔物のボアだったしな。

 ちゃんとした武器さえ持っていれば、普段戦わない者でも一人でギリギリ倒せるといったくらいだ。


 だが、ここの住民たちはそうでもなかった。

 武器が不足しているのだ。

 ボアごときにも対処出来ないようでは、色々と大変だろう……彼らの苦労が分かるようであった。


「そんなことより、領主……村長らしきを見かけなかったが? どこにいるんだ?」

「男? ん……ああ、前の村長は爺さんだったな。だが、今の村長は……」


 質問の答えが返ってくるところであった。



「あ、ありがとうございます! 救世主様!」



 人混みを掻き分けて、一人の女の子が俺の前に現れた。

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最強魔導士の辺境開拓 〜左遷された先は見捨てられた領地だったので、魔法の力でのんびり暮らしを満喫中〜 鬱沢色素 @utuda

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