輻輳する想い Part 7

 カール、ベリルとボリスはすぐさまよけた。ターラは固まったインディラを引っ張って大事には至らなかった。すると何者かが、5人の後ろから上がってくる音がした。ゴールであった。彼は不機嫌そうに言った。

「誰だ! こんな真昼間に大きな音を立てたのは! こっちはぐっすり……」

 もう一発ビームが発射され、液体ガリウムがそれによって散らばった。

「ターラ、インディラを連れて避難して」

 ボリスが伝えた。インディラは過呼吸になって失禁までもしていた。

「それじゃ他の皆はどうするんだ」

 とターラ。

「そりゃ追い払うに決まっている、そうだよね、ふたりとも」

 ボリスはカールとベリルに首を曲げた。

「面倒なことになったけど、起こったことはしかたないよね」

 ベリルは関節を鳴らした。

「望む所だ」

 カールは両手に橙色の炎を立て、皮膚は白銀色になった。ターラは彼らとインディラを見比べ、ボリスに言われた通りに妹を抱えて下へ逃げていった。

「ふたりとも、準備は出来たようだな、そんじゃ、ちゃっちゃとやつけちゃおうぜ」

 ボリスはゴムボールのように弾き飛んで2体のメカスーツを払い落とした。ベリルとカールも同じように手足で叩き落とす。しかし、敵は皆すぐさま態勢を戻し、反撃した。空中からの遠距離攻撃だったために、手ぶらの3人は彼らに届くことが出来なかった。それからは一方的に攻撃されるばかりだった。ボリスの全身は真っ黒になり、罅が入っていた。

「やべえ、これ以上動けねえぜ」

 体の限界を感じたボリスは捨て身の攻撃に出た。先程と同じように弾き飛んで、敵まで届くのだが、それがすぐに気付かれてしまい、粉々になるまで打ちのめされた。

「ボリス! 畜生!」

 カールは叫んだ。たくさんの黒い石が降ってきた。

「追い出すことさえ無謀だったか」

 とベリル。彼女は両手を頭の後ろに組んだ。

「おいおい、降伏するつもりかよ」

 とカール。

「これ以上戦ったって余計な被害を出すだけだ。それなら降伏した方がましだ。先週の《レア・アース》のビルを思い出してみろ」

 ベリルに気圧され、舌打ちしながらカールも彼女と同様に頭の後ろに手を組んだ。

「おい、襲撃者ども。私たちはこの通り、降参する。だからこれ以上ビルに被害を与えないでくれ」

 ベリルは敵に向かって叫んだ。それを耳にしたと思われる4体のメカスーツは着陸し、何やら相談事を始めていた。

「この隙に」

 カールが囁いたがベリルは彼の提案をすぐに打ち消した。

「やめた方がいい、却って悪くなる」

 すると、4体のメカスーツの更に向こうから声が聞こえてきた。

「降参だと? また随分と決断が早いじゃないか」

 すると巨人を象った白い雲がモクモクと寄ってきて4体のメカスーツを手で完全に覆った。そして、雲の向こうからホバースクーターに乗ったふたり組が現れた。そのうち、運転手を抱いていた方が降りて、降伏のポーズをとっていたふたりに目線を向けた。

「待たせたな、ふたりとも」

 炭人は口にタバコを加えていた。先程の巨大な組は、炭人の口繋がっていた。

「乗せてありがとうな、スカーレット。ここは僕たちに任せろ」

「了解」

 ホバースクーターに乗っていたスカーレットはすぐにビルから飛び去っていった。

「おいおい、あのスクーターで敵の近くまで飛んで攻撃することだって出来たのに」

 とベリル。

「何、そんなことは必要ない。タバコがあれば、僕のギフテッドが使えるんだから」

 炭人のギフテッドのひとつはタバコなどを吸い、吐いて出来た煙を自在に操るというものである。今形成された雲の巨人は単にその形になっただけでなく、本物の巨人の如く、捕まれたら身動きが出来なくなる。実際、4体のメカスーツは巨人に握り締められ、抜け出せずにいる。巨人はメカスーツを地面に叩き付け、消えた。スーツは破損し、一部火花が散っていた。それでも4体共に立ち上がり両手を3人に向けた。

「おいおい、まだやる気か? 無駄だっちゅうの」

 今度は炭人の口からは2頭の大蛇が空中を蠢きながら近付き、2体に噛み付いた。蛇は噛み付いたメカスーツを、噛み付かれていない2体目掛けて放り投げた。2体はよけようと飛び立とうとするが、何者かが遠くから銃で足を射抜かれ、動きが麻痺した。

 撃ったのは遠くにスナイパーとしてスタンバイしていたプロンブスだった。彼は2体とも命中したことに喜んだ。

「やったぜ、俺ってかっけえ」

 すると、彼が耳に入れていたイアフォンから声が入った。

「軌道を計算されて、逆に狙われるかもしれないぞ、油断するなよ」

 それはゲルマンの声だった。ゲルマンは自社から炭人とプロンブスに指示を送る役をしていた。

「プロンブス、退避だ」

 ゲルマンの予想通り、プロンブスの居場所は敵に見抜かれ、1体が倒れながらも彼のビル目掛けてビームを放った。プロンブスは無事にその攻撃からは逃れたが、彼が居たビルも大破した。

「おっかねえな」

 とプロンブス。するとゲルマン。

「言った通りだろ」

 4体のスーツが完全にくたばった。すると、《クリスタロゲン》襲撃の際と同様の手段が取られた。空からは大量のドローンがやってきた。

「させるものか!」

 ゲルマンは細かな位置をプロンブスに伝え、プロンブスは幾つか撃ち落とした。

「お前らにプレゼントだ」

 炭人はベリルとカールに何かを投げた。

「使い方は分かるだろう?」

 銃を渡されたふたりはそれを使ってドローンを撃ち始めた。一方の炭人は煙で矢のような形を作って、残りを貫いた。

「姑息な手は取らせないぜ。さあ、お前たち、どうする?」

 すると4体のスーツは突如高熱を出して白く発光した。悪い予感がした炭人はバラバラになったボリスの欠片を煙で掻き集め、カールとベリルを引っ張って引き下がった。そのままバスが衝突したような巨大爆発が起きた。煙が止むと新品のメカスーツが4体浮遊していた。すると、炭人の背後から怒号が鳴り響いた。

「この野郎よくも僕を撃ったな!」

 ゴールはバスケットボールほどの大きさのガリウムを投げた。それが見事に青色の個体に命中し、落下した。他の3体は慌てて落下していく個体を追った。青い個体は《イコサゲン》のビルの下の階のガラスを割って入っていった。

 ビルは今にも倒壊しそうだった。しかし、炭人が作った竜の煙が支えていることで立ったままでいる。竜はゆっくりと折れそうな部分を陸に下ろして消えた。

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