輻輳する想い Part 6

 カールは納得が行かなかった。前週、《レア・アース》のビルが爆破されなければ、自分も会議に参加するはずだった。そして、今日の会議は不開催となったものの振り替えのはずだ。だのに、今日の会議は各グループにつき代表1名しか参加しないということが、当日に伝えられ、それが不満で仕方なかった。納得しなかったのはトロンもバリーもそうだ。ふたりは突然それを話したマグナスに対し、説明を要求した。しかし、マグナスは決まったものには従うべき、その一点張りだった。トロンはカールに同意を求めた。しかし、そのときカールは期待外れの回答を出した。

「旦那が言うなら、それは従うべきだ。ひとが多くたって、意見が纏まらない、我々の総意を旦那は纏めてくれているし、俺たちがわざわざ参加することはない」

 トロンはそれに対抗し得る意見は持ち合わせていなかった。トロンとバリーは、がっかりした表情をして、椅子に座り込んだ。

 一方で、《イコサゲン》の代表・アルベルトもまたマグナスと同じ事をした。だが、皆の反応は《グループ2》のそれと真逆だった。

「あらそう、それは残念だな、しょうがない。ボリス姉ちゃんちゃんとお留守番をするよ」

 と言ってアルベルトの姉・ボリスは弟にジャケットを羽織るのを手伝った。

「ああ、ありがとう」

 アルベルトは礼を言った。アルベルトの一番上の孫・ターラはそれを突然言われても全く動じず、コーヒーを啜っていた。2番目の孫・インディラはそれを聞いて、強張った体がむしろ緩んで、大きく息を吐いていた。3番目のゴールはそもそも事情を聞いているのも怪しく、机の上に頭と両腕を寝かせて、文字通り溶けていた。

 ボリスはアルベルトに鞄を持たせ、尻を叩いた。

「それでは弟よ、いってらっしゃい!」

 こうしてマグナスとアルベルトは出掛けていった。

 アルベルトが家を出てから30分、ボリスは突然ニヤニヤし出した。

「よしよし、そろそろ会場に着く頃だな」

「まさかまた変な事を企んでいたりしないよね、僕はそういうの勘弁だよ」

 ゴールは覇気のない声で30分前と全く同じ姿勢で言った。

「なーに、そんな大したことはないよ」

 そう言ってボリスはパソコンをダイニングテーブルに置いて立ち上げた。

「皆もきっと気になっているでしょう」

 ターラとインディラはぞろぞろパソコンの方に集まった。パソコンの画面には、会議場に入ってくる映像が写っていた。

「こ…… これって」

 インディラは震えた小声で言った。

「まさか、アルベルトの服に隠しカメラを仕込んだのか?」

 とターラ。すると、ボリスは嬉しそうに答えた。

「御名答。あいつの着替えるのを手伝っているときに仕込んだのよ。きっとあいつまだ全然そのこと気付いていないよ」

「バレたらどうするのよ……」

 インディラが言った。

「そのときはそのときよ。まあ、うちは全然怖くないけどよ」

「で…… でもあたしたちだって同罪に……」

「ホント、インディラったら臆病ものだね。他の錬金術師たちも、基本的に皆優しいし平気よ」

「音声も聞こえるのか?」

「ターラまで乗り気!?」

「勿論さ、我が社が開発した超小型カメラを侮っちゃいかんよ」

「お、ようやく会議室に入っていったようだな、キュープラムスとマグナス、相変わらずふたり、早いな」

 一方で2族の家ではトロンは歩き回っては愚痴を延々と零していた。その後をバリーはついていき、某口癖で応えた。カールはそんなふたりの様子を見て、溜息をいた。

「いい加減にしろ、これが200歳以上の言動か?」

「だって、おかしくないか? 別にスパイじゃあるまいし、俺たちにだって出席する権利はあるんだぜ?」「フンガフンガ!」

 すると、ベリルが突然立ち上がった。

「さてと、私もそろそろ出掛ける」

「それまた急だな。散歩か? 買い物か?」

 マグナスが訊いた。

「いや、《イコサゲン》の所よ」

「珍しいな、滅多にひとと会おうとしないお前が《イコサゲン》の所に行くだなんて」

「そうだな。一緒に来るか?」

 トロンとバリーは再び愚痴大会を始めていて、ふたりの会話を聞いている様子はなかった。カールは答えた。

「お前がいいなら、ついていくよ。何だか最近、旦那と隠し事しているみたいだしよ。きな臭いぜ」

「何のことかしら」

 ベリルは惚けた。

「まあいい、トロン、バリー、お前らは」

 カールはふたりに訊いたが、彼らは愚痴に夢中だった。

「ふたりの事は放っておいて、私たちだけで行こうぜ」

 とベリル。

「それもそうだな」

 カールとベリルは颯爽と部屋を出て行った。するとトロンはカールに同意を求めたが返事は全く無かった。辺りを見渡し、ようやくいなくなっていたことに気付くのであった。

 一方で、ボリスのパソコンにはシリカやイミール、新世界秩序の面々が次々入室してくる様子が写っていた。そこへインターホンが鳴り、ボリスは透かさず立ち上がった。

「こっちの観客も揃ってきたぞ、ふたりを迎えに行くわ」

 ボリスは来客、ベリルとカールを迎え入れた。

「ふたりともいらっしゃい。カールも来たのね」

「なにか問題でも?」

 カールが訊くとボリスは答えた。

「いやいや、大歓迎よ、観客が多ければ映画も面白くなるよ」

「映画?」

 カールはボソッと言った。パソコンのある部屋に入室すると、カールはようやく映画の正体を知り、驚いた。

「これって、まさか……」

「そうよ、会議の生中継よ」

 ボリスはあっさり答えた。

「大丈夫なのか?」

「平気よ、どうせバレないし、いずれ共有されることなんだし、損はないよ」

 確かにその通りだ。何より好奇心もあるわけだし、カールも映像を視聴することにした。ボリスはいつの間にかポップコーンを用意していて、音をたてながら頬張っていた。

「ちょっと貰っていいか?」

 ターラが訊く。

「おうよ」

 ボリスはそう言ってポップコーンの容器をターラの方に近付けた。会議はイミールの不機嫌さによって、とっとと本題に入った。あまりにも予想通りの展開に、ボリス、ターラ、カールとベリルは苦笑いした。イミールの退屈な演説が終わると、今度はシリカの方から意外な新事実が突き出され、その仕事振りに、会場に居るアルベルトと同様の感心を、盗撮者たちは抱いた。今までに聞いたことのない情報が次々に明かされると、いよいよマグナスが《クリスタロゲン》の襲撃犯を明かす時がやってきた。マグナスが執拗に内密性を強調した後、彼は犯人を挙げた。

「へえ、これまた随分と面倒なことになってきたな」

 とボリスはポップコーンを食べ続けていた。カールの背筋は凍った。この間ファミリーリユニオンの話をしたばかりではないか。襲撃犯とはどういうことか。そしてカールはようやくマグナスの意図を理解した。カールはベリルの表情をチラッと見た。彼女はじっとしていら。隠し事の内容がこのことだと推量し、カールはその場でベリルを摘み出して事情を聞き出そうとも考えた。しかし、どうせしらばっくれて、何も期待できそうもないとも思ったカールは思い留まった。すると、突然上階から巨大な爆発が耳に入り、吊るされていた明かりは大きく揺れた。

「何事だ!」

 ゴール除く皆が一斉に立ち上がり、様子を見に一斉に駆け出した。上がってみると、建物が酷く大破していた箇所があった。その向こう側にはちょうど4体のメカスーツが飛んでいた。ボリスとベリルはすぐにそれぞれのリーダーに連絡をした。それぞれが繋がったのは幸いだったが、5人の姿を確認したメカスーツのうち一体が、彼ら目掛けて光線を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る