輻輳する想い Part 3

 当日、会議は中止された。《レア・アース》が管理するビルの大規模爆発により、半数以上がその対応に追われ、出席が困難であったためだ。爆破により、現時点で確認されているだけで犠牲者は500人、これからまた大幅に増加する可能性が高い。建物はまだ炎上していて、倒壊する虞がある。希土類の16人は会議のため、全員ビルがあるドイツを出国していたが、被害の確認のため、その殆どは早急に飛んだ。ここ最近東欧で多発している放射線中毒死もあって、現地の消防はガイガーカウンターを持ち出したが、検出された放射線量は基準値を大幅に超えていた。そのため、大勢の周辺住民は避難を余儀なくされた。

 航空機のビジネスクラスに乗っていた《レア・アース》代表のイミールは居ても立っても居られず、貧乏揺すりをしながら、ブツブツと何か言っていた。

「畜生、ウルバンの奴め。俺のビルを壊しあがって、一体何年掛けて建てたんだと思っているんだ」

 隣に座っている妹のセリアはそんな代表の不機嫌な様子を見て、落ち着かせようとした。

「起こったことは仕方ない。ここは一旦冷静になって、対応を考えましょう」

「んなことが出来るものか!」

 イミールは怒鳴った。

「今までの集団中毒はウルバンの仕業に決まっているのによ、未だに奴の手掛かりは掴めないし、それどころか一部の分からず屋はハルゲヌスが云々だと言い始めおった。余計な疑念を持たずにさっさと奴を捕まえりゃいい話を、他の連中は典型元素の掌握にばかり夢中でよ、結果こんなことになってしまったんだ。ついでに放射線も撒き散らかしておいて、会社の印象が台無しだ」

「だけど今はとにかく周辺住民への釈明を考えないと」

 セリアの息子・ラニーがそう言うとイミールは立ち上がって、彼目掛けてスマートフォンを投げ付けた。

「うるせえ、お前がやれや」

 思い掛けず時間が出来てしまった2族の者は帰宅した。一息ついて全員が寛ぎ始めると、マグナスは部屋にいる4人に耳を傾けさせた。

「会議は無くなっちまったけど、突然で申し訳ないが、ちょっと皆に大事な話がしたい」

「おっさんが大事って言うなら、そりゃ大事だな」「フンガー」

 トロンとバリーが応答した。

「大事な話って言うのは、一連の事件とは関係ないんだが、家族のことだ」

「家族って、ここに全員居るじゃねえか、ライはともかく、俺たちがなんか不味いことでもやらかしたんか」「フンフンガー」

「安心しろ、お前らはよくやっている」

 するとカールは口を挟んだ。

「とすると、1族の奴らのことか」

「ああ、そうだ」

「いやいや、今になってあいつらに何の要が有るって言うんだよ、俺たちは5人だけでも十分にやれているじゃねえか」「フンフン」

「それもそうだが、あいつらはお前らにとってのいとこ、俺からすりゃお前らもあいつらも等しく甥姪、ひとつの家族なんだ。勿論、向こうが独立したままでいたいのであれば結構だ。だが、あいつらと最後に纏まって会ってから一体どれほどの年月が経っているのか。これからも俺たちは散り散りのままでいいのか、それは家族の形として如何なものか」

「要するに、旦那はファミリー・リユニオンを考えているのか」

 とカールが訊いた。

「話が早くて助かる。俺はそいつを考えているんだ。勿論、お前らが嫌なら正直に言ったって構わないさ」

「俺は構わないけどよ、旦那、なんで今になって彼らのことが気になったんだ」

「いや、最近イミールの様子を見て思ったのさ、ウルバンとは半分血を分かち合っている兄弟なはずだ。しかし彼らの家族としての絆は破綻している。それで思ったんだ、俺の家族はどうなんだって。確かに昔は犬猿の仲だったのかもしれない、しかしいずれどこかで割り切ることだって必要だ」

 それを聞いた3人の甥は手をマグナスの肩にやった。

「とっくの昔の話だ、俺たちは良かれと思ったものには何だって賛同する」「そうだ、それもおっさんが言うことなら尚更だ」「フンガー」

 そうだ、あれは全て過去のことなのだ。皆はとっくに忘れている。そう気付かされたマグナスは胸が空いた。しかし、和むのも束の間、男たちの間を割ってきたのはベリルの毒のある一言だ。

「仲良しごっこしている所申し訳ないが、私はあんたの綺麗事が偽善にしか聞こえない」

 するとトロンとバリーは彼女に対し抗議した。

「おいおい、何つれないこと言っているんだ。せっかくいいムードがぶち壊しじゃねえか」「フンガー!」

「いやだって、イミールの様子を見て思ったんだと? 人様の様子を見てようやく気付いたってわけなのか? もし本当に心配何だったら、普段から定期的に会ってたはずよ」

 カールも反論に加わった。

「よく人のふり見て我がふり直せと言うじゃないか。今までは気付かなくても、どこかで気付いて直せれば、それは立派なことだ」

 そして追い込みにトロンとバリーが続けた。

「参加したくないなら、お前だけ参加しなきゃいいだけの話だ!」「フンガフンガ!」

「開催する前提で話すのね、向こうが断ったら元も子もないのに」

「全く消極的な態度だな」「そうだそうだ!」「フンガー!」

 4人が構えの姿勢を取り、取っ組み合いでも始めようとしていた。そこへ、マグナスは間に入った。

「そこまでだ。ベリル、ちょっと来い」

 マグナスはベリルを連れてリビングの外へ出て行った。

「嘘つき」

 マグナスがリビングと廊下を繋げるドアを閉めると同時にベリルは呟いた。するとマグナスは割り切った顔で正直に答えた。

「ああ、そうだ。俺は嘘つきだ。俺はちっとも家族の形なんかに拘っちゃいねえ。だがな、俺にはあいつらが道理を踏み外した際に責任を取る義務がある。あいつらの親父はお前らの親父を殺した。そして俺はあいつらの親父を殺した。あいつらに対しても父の代わりとし、あいつらの採った行動を追及しないわけにはいかないんだ」

「それでファミリー・リユニオンをしようと言うのか?」

「ああ、せっかくの機会だ。いとこ同士顔を合わせるのも悪くないだろ。それと、お前が嫌と言おうが絶対に連れていく。万が一のときの戦力も必要だからな」

 本心を話されても、ベリルの嶮岨な表情は変わらなかった。

「なんだ、やっぱり偽善者じゃないか。まあ、そう言われるならば仕方ないな」

「ただ、本来の目的は弟たちや向こうの子たちには黙ってろ、彼らには純粋に家族交流して欲しいからな」

「まあ、伯父さんが言うのであればそれは仕方ないな」

 一方で、リビング内で、トロンはバリーに対してベリルへの愚痴を延々と吐露し、バリーはそれに延々と頷いていた。一方のカールは、ドアのすぐ側に黙って立っていた。ベリルとマグナスの会話を盗み聞きしていたカールは、まるで自分が戦力外通告をされたかのようで、落胆していた。マグナスが突然打ち明けたときから、否、深夜、マグナスがベリルと今と同じように一対一で話していたときから、裏があると勘づいていた。次第に焦りが出てきて、もっと鍛錬せねばと、考え込んでいた。すると、突然トロンはカールに対して突然同意を求めてきた。カールは慌てて肯定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る