輻輳する想い Part 2

 あの襲撃のあと、新世界秩序のふたりとマグナス、アルベルトは解散した。マグナスは2族が経営する企業グループ2の事務所兼住宅への帰り道、襲撃犯のことばかり考えていた。犯人は彼らに間違いはない。しかし、なぜ彼らが《クリスタロゲン》を襲わなければならなかったのか、なぜ査探協会に協力しているのか、気掛かりになって仕方がなかった。だが、何より彼が最も憶念しているのが、その襲撃犯が、彼の甥・姪に当たる人物だったからだ。

 マグナスには弟がふたり居た。いずれも不老不死になることなく死んだ。マグナスはそれぞれと仲良くやっていたと思った。しかし、異母兄弟同士であった3人は、所謂相続問題で対立していた。早くから不老不死となり、子を遺さなかったマグナスは早い段階で繋争から身を引いた。どちらかといえば無駄な衝突を避けた彼はふたりの和解に努めた。しかし、多くの手違いや、ハルゲヌスの介入により、事態は血が飛び交う騒動へと発展した。ハルゲヌスに言いくるめられ、マグナスに逆恨みをしたのは下の弟だった。

 上の弟はマグナスに縋り、彼から不老不死の薬をせがんだ。それが、マグナスが採った最大の失態だった。懇願に負かされたマグナスは上の弟に薬を譲ったが、その弟はすぐにも自分の子供たちに飲ませた。彼らこそ、今の2族を構成する残りの4人だった。上の弟も薬を服用しかけたが、下の弟が仕掛けた刺客に殺られ、残りの薬は盗まれた。彼が飲みかけた薬は最終的に、自身の末息子・バリーの末裔・ライが服用した。

 その一件以来、家督を巡る殺し合いが勃発したのだった。その過程で下の弟も子供に薬を飲ませた。彼らとその続柄が、今の1族を形成した。一方で下の弟はマグナスが直接手を下し、死んだ。下の弟側の財産は最終的にハルゲヌスに吸い込まれ、没落する形で争いは終結した。家督は結局マグナスに譲られた。20世紀に入ると、他の典型元素同様、マグナスは1族と2族を取り込み、電子部品等の事業に乗り出した。それが現在の《グループ2》の原型であった。当初は仲良くできていたとマグナスは思った。しかし、ある日突然1族の方が独立を宣言し、分裂した。その当時はもしかしたら自分が彼らの父親を殺したことを、まだ根に持っていたのでは、とマグナスは心配した。以来、一族が一堂に会すことは稀となった。そして今、分裂したときと似たような感情が、あの襲撃によって蘇ってきた。

 家に着き、マグナスはリビングに直行した。中は外と同様真っ暗で、物音ひとつなかった。部屋の明かりを付けると、ダイニングテーブルにはラップが包まれた夕食が置いてあった。マグナスがそれを確認すると、後ろから部屋に入ってくる気配がした。

「旦那、遅かったじゃねえか」

 それは上の弟の長男・カールの声だった。

「何だ、カールか」

 とマグナスは呟き、夕食を電子レンジに入れて、席に付いた。

「ちいと厄介なことがあってな」

「まあ、ニュースで観たぜ。あれは災難だったな」

「何だ、気付いていたのか。向かう途中でたまたま《クリスタロゲン》ビルが炎上したから駆け付けると、クリスタロゲンのやつらが襲撃者にこっぴどくやられててな」

「それでおっさんが木っ端微塵にして敵をやっつけたわけだな!?」

 また新たに入室者が現れた。それは上の弟の次男だった。

「トロン、お前も起きていたのか。残念だが、襲撃犯は逃走、というかと言うべきか、しちまったよ」

「はーん。そういうことだったのか」

 とカールは顎を詰った。

「ニュースではどう報道されていたんだ」

 マグナスは訊ねた。

「一応事故として報道されてたよ。原因は詳しく調査するってあった」

 カールが答えた。

「調査というか捏造だがな、まあそうなるのも大方予想はついていたけど」

「それにしたって遅すぎますよ、おっさん」

 とトロン。

「フンガー」

 トロンに続き、上の弟の三男が現れた。

「バリーも居たのか。あのあと、クリスタロゲンの治療、というか修復作業に取り掛かったから、そこで時間を食っちまったんだ。まあでも、明日の集会にも分かると思うけど、奴ら、結局協力するってよ」

 ちょうどここで電子レンジが鳴り、マグナスは立ち上がって容器を取り出した。するとトロンとバリーは大喜びだった。

「やったじゃねえかおっさん! これで捜査も広げられる」

「フンガー!」

「ああ、そうだ。こっちにはインターネットのありとあらゆる情報を掴んだシリカが味方がある。これで奴らの居場所も突き止められる」

 とマグナスは張り切った様子で夕食を掻き込んだ。

「奴らって?」

 とトロン。

「施設から脱獄した連中と、ハルゲヌスの一味のことだよ」

 呆れた感じでカールは言った。バリーも呆れた感じで例の口癖を発した。

「ああ! そうだった」

 夕食を食べ終えたマグナスはすると3人に言った。

「とにかく明日はものすごく進展する会議となるから、しっかり休みは摂るようにだな」

「それもそうだな。聴いたか諸君。俺たちは明日の体力温存のためにも寝るのだ」

 カールは弟たちに呼び掛けふたりはそれに応じた。

「おう!」「フンガー!」

 こうして3人は部屋からすぐに退場した。

 少し時間が経ってから、マグナスは食器を食器洗い機に入れ、電気を消した。そのときにポケットに入っていた携帯電話が鳴り、マグナスは応じた。

「もしもし…… ああ、国頭さん…… いや、ちょうど寝るところだ…… 作戦? …… 頼み? …… 訪問かあ、あいつらとは今殆ど面会していないし予定もないが…… んん、取り敢えずあいつらの予定を確認しないと…… いや、特に問題はないが…… 承知した、それとひとつ頼みが、どうか無闇に彼らの名前は出さないでくれ、特に他の2族にはだ…… お願いします。では、またいつか」

 電話を切ると、マグナスは椅子に座り込み、右肘をテーブルに乗せて、右手を顔に当て、暫くその姿勢のままでいた。すると突然カーテンの方から人影が現れた。

「ふーむ、犯人は1族だったのね」

「ベリル、お前聞いていたのか」

 ベリルは上の弟の長女で4人きょうだいの最年長だ。

「頼むから、弟には黙っててくれ」

「ええ、勿論。いずれ向き合うべき問題になるから長くは秘密にできないと思うけどね」

「ああ、そうだな。しかし、もう少し俺にひとりで考える時間が欲しいんだ」

「まあ、私はこんなことで裏切るつもりはないし、あんたがさっき言ったように、明日は大変な日になりそうだし、私は寝るよ」

「ああ、お休み」

 ベリルは部屋を去った。それから間隔を置いて、マグナスも自室に行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る