嚆矢濫觴 Part 9

 何が起きたのか分からず、シリカは呆然と墜ちていく機体を眺めていた。ほぼ同時に鏃の形をした金属片がふたつ、紫の個体に刺さり、そこから目視できるほどの電流が放たれ、紫の個体は旋回するように落ちた。鏃は細長い線があり、そのもう一端はアルベルトの手首に繋がっていた。アルベルトは戦闘機の形をしたホバーボードを、マグナスと共に乗って、飛んできたのだ。マグナスはホバーボードから飛び降り、ホバーボードが着陸する寸前で、それはノートパソコンの大きさまで折り畳まれ、アルベルトの背中に引っ付いた。

「シリカ、大丈夫か?」

 アルベルトは声を掛けた。

「平気だ。それよりも、他の3人が重体だ」

 シリカはムッとした表情だった。

 一方で、地に足を付けたマグナスの皮膚は全身光沢のある白銀色となり、手足は赤い炎に包まれた。

「中々派手にやってるじゃねえか。誰の差し金かは知んないがよ、相手になってやろうじゃねえか」

 マグナスはそうやって自分を鼓舞した。すると、彼は勢いを付けることもなく、足を踏ん張らせて高く跳び上がり、赤い個体を蹴落とした。

「おいおい、私の分もちゃんと残せよ」

 声が聞こえた方向にシリカが顔を向けると、そこには黄色い個体を押さえ付ける怪獣と、それの背中から降りる嵩音の姿があった。怪獣の顔は牙を出した猿、胴は赤茶けた毛で覆われ、四肢と腹部は虎の模様、尾はくねった動きをする黒い蛇であった。

 残った青紫の個体は嵩音に向けて火球を放った。反射的にシリカが危ないと叫ぶが、火球は嵩音を直撃し、埃が舞った。視界がある程度開くと、そこには整然と立っている女の影があった。嵩音だった。彼女は掠り傷どころか、服にも汚れひとつ付いてはいなかった。彼女は右腕を伸ばていて、何かを押さえているようだった。彼女の手から数センチ離れて、放たれた青い炎が静止していた。

「たく、ただのプラズマだったら楽なのに、まさか中心に金属片が入っているとはよ」

 そう言いながら、何かを押し出すような動作をした。同時に火球は青紫の個体の方向に飛んだ。メカスーツはそれを避けて、火球は空中で弱まって消えた。青紫の個体は同様の攻撃を繰り返すが、嵩音はびくともしなかった。

「おいおい、その程度の弾で、私を倒せるとでも思ったのか?」

 嵩音は煽り、そして彼女の頭の真横左右に白いワームホールのようなものが出来て、そこから白いビームが放たれた。敵は蚊のように、不規則な動きをして躱したが、ビームの動きが加速していき、直撃して黒い煙を出して墜落した。

 アルベルトとマグナスが落とした機体は飛行が出来なくなったらしく、両足を地面に付けて攻撃を続けていた。アルベルトとマグナスは身軽な体で次々と躱していきながら、それぞれの機体へと接近していった。目前まで近寄ると、アルベルトは背中の折り畳まれたホバーボードから、短剣を2本取り出して、それを機体目掛けて振り落とした。機体は頭を守るように両腕で隠し、短剣の刃がそれに当たって火の粉が散った。マグナスは相手の隙を探りながら蹴りや殴りなどの攻撃を連続で繰り出し、敵は手出しをする術もなく倒れた。怪獣に押さえ付けられた個体は右腕を挙げて、それの顔を目掛けて一発放とうとしたが、すぐに怪獣に掴まれ、その手は握り潰された。嵩音は自分が落とした機体の方へ近付いて、大破して全く動いていないことを確認した。機体からは金色の液体が漏れていて、その周りには青い炎が立ち上っていた。

 さて、残された紫の個体はアルベルトの攻撃により、全身に切り傷が付けられ、動きも鈍くなっていった。アルベルトは思い切り右手に持っている短剣を胸部に刺して、貫通した。機体は膝を落とし、動きを止めた。アルベルトは短剣を機体から引っこ抜き、息切れで呼吸を荒くした。

「やったか?」

 怪獣は突然人語を話した。すると嵩音は慌てた様子で言った。

「おい、死亡フラグを立てるな」

「死亡フラグって何の……」

 怪獣が言い切る前に、空から石ころが幾つも落ちてきた。アルベルトはひとつ拾った。

「何だこれ? 柔らかい…… 金属?」

 上を見上げるとドローンが50台も飛んでいた。すると、これらのドローンはスプリンクラーのように、水を下に振り掛けた。

「これはまずい、一旦天井のあるところに退避だ!」

 マグナスは叫び、シリカを抱えた。アルベルトは炭人、怪獣はゲルマンとプロンブスを背負って、4人はすぐさま天井が残っている部分に走った。

「おいおい、機体は放置してもいいのか?」

 と怪獣は心配そうに言った。

「やつらに関しては後で責任を追及できる。とりあえず今は爆発に備えるのだ」

 とマグナスが言った

「爆発?」

 怪獣がその言葉を口にした瞬間、辺りは白い煙を上げて、幾度も爆発を繰り返した。爆発は3分も続き、視界は真っ白になっていた。煙が引いて、青空が再び拝めるようになると、新品同然の4体のメカスーツが、空中に浮いていた。敵に姿を見せびらかすと、4体はすぐに飛び去った。

 安全を予感したマグナス、アルベルトと嵩音は天井のない方へと身を出し、辺りの様子を見渡した。

「ひやあ、これは随分酷い有様だ」

 とアルベルト。

 爆発前に3人と1体が破壊した機体は残っていた。その破片を調べてみると、中は空洞になっていたことがわかった。

「まさかあいつらまでが敵に回ったとはな」

 マグナスはボソボソ口走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る